米Apple社が初めて独自のアプリケーションプロセッサーを製品に投入したのは2011年のことだ。同社自身が設計・開発を行い、韓国Samsung Electronics社の45nmプロセスで製造した、「A4」と呼ぶプロセッサーだ。A4プロセッサーは、Apple社が2011年に発売した多くの製品に採用された(図1)。まず登場したのが初代の「iPad」で、その後、同じチップが「iPod Touch」「iPhone 4」「Apple TV」にそのまま採用された。A4のチップセットに大型ディスプレー用のコントローラーを加えたものがiPad、Ethernet端子を加えたものがApple TV、移動通信用のチップセットを加えたものがiPhone 4である。4製品とも基本的に同じチップセットを用いたことで、すべて同じOS(iOS)が動作した。

図1 A4プロセッサーを採用した製品のメーン基板
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図1 A4プロセッサーを採用した製品のメーン基板

 Apple社がA4プロセッサーを4種類の製品に展開したのは、これまで他のメーカーが行っていたプロセッサーの採用方法とはまったく異なるものだった。他のメーカーは一般的に、各製品の仕様や市場などに応じてチップや部品を使い分ける。その考え方でいくと、iPadはパソコン(PC)の置き換え製品としてPC向けのチップや部品が、Apple TVはセットトップボックス製品なのでテレビ向けのチップや部品が使われていただろう。

 しかしApple社は大胆にも、上記の4製品を基本的にまったく同じチップセットで構成して各製品に特有のインターフェースにのみ部品を加えた。形や用途は異なるが、4製品は半導体やプロセッシングの観点で見ると同じものだった。OSのアップデートやアプリケーションの対応も基本として同時に行われた。