2016年10月27日、Qualcomm社がNXP Semiconductors社を買収すると発表した。買収額は470億米ドル(約4兆9000億円)という超巨額、半導体業界では過去最大規模の買収である。2017年中の手続き完了を目指すという。

 NXP社は、2015年にFreescale Semiconductor社の買収を完了したばかりで、今度は買収される立場になるという慌ただしさだ。同社は、マイコンなど車載半導体で世界首位であり、その他にもセキュリティーチップやコネクティビティ関連の製品でも強い。車載とIoTという、今後の成長が期待される市場に地盤を持つ魅力的な企業である。

 Qualcomm社側から見れば、今回の買収は、市場の停滞が隠せなくなったスマートフォン市場への過度の依存から脱するための渾身の策と見られる。近年の同社は、ポストスマホ時代を見据えて、ドローンやディープラーニングなどのチップ市場に参入していた。買収が成功すれば、現在61%を占める携帯電話向けの売り上げ比率は一気に48%まで下がり、自動車・IoTなど向けの比率が現状の8%から29%まで上るという。

 Qualcomm社がNXPを買収することによって、IoTシステムのエッジに置く機器の主要機能がすべて集まった感がある。コネクテッドカーの分野でも、強力な存在感を放ちそうだ。舵取り次第では、IoTの分野で業界標準的なプラットフォームを生み出し、あらゆるIoTの応用市場を根こそぎ持って行ってしまう可能性すら感じる。しかも、最終的にどのような扱いになるのか不明だが、Qualcomm社はファブまで保有することになった。

 今回のテクノ大喜利では、Qualcomm社と競合企業それぞれの経営者の立場に立って、この買収のインパクトと今後の舵取りの視点を考えていただいた。最初の回答者は、野村證券の和田木哲哉氏である。
(記事構成は伊藤元昭)

和田木 哲哉(わだき てつや)
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
 1991年東京エレクトロンを経て、2000年に野村證券入社。アナリストとして精密機械・半導体製造装置セクター担当。2010年にInstitutional Investor誌 アナリストランキング1位、2011年 日経ヴェリタス人気アナリストランキング 精密半導体製造装置セクター 1位。著書に「爆発する太陽電池産業」(東洋経済)、「徹底解析半導体製造装置産業」(工業調査会)など

【質問1】Qualcomm社の経営者の立場なら、自社の価値を最大化するために何をしますか。
【回答】明確な成長戦略の立案と発表という観点から、現段階で足りないパーツの補完

【質問2】今回の買収で、最も影響を受けると思われる競合はどこですか。
【回答】パッケージ販売力で劣位に立たされる日系メーカーのルネサスとInfineon社

【質問3】買収後のQualcomm社に死角があるとすれば、どこが問題になると思われますか。
【回答】 そもそも死角は多い