大学の役割は、時代と共に変わりつつある。現在では、社会や産業が抱える問題解決を解決するためのシンクタンクとしての役割が大きくなり、大学の仕組み自体もそれに併せて変わりつつあるという。

 さらに、そこに属する教官や学生を取り巻く環境もまた、大きく変わりつつある。かつてに比べて、研究に費やす費用の増大とは裏腹に、利用できる予算の枠は縮んでいる。さらに、研究者の興味の赴くままに研究を進める従来の研究のあり方のままでは、発想が凝り固まって目立った成果が上げにくくなっているという指摘もある。産学連携は、こうした大学が抱える課題を解消するためのブレークスルーにもなり得る。

 とはいえ、企業と大学では、同じテーマに取り組んだとしても、その目的や価値観、視点が大きく異なる。企業と大学が産学連携によって一定の成果を生んでいくためには、高度なマネージメントが求められることだろう。今回は、企業経営者の視点と大学の教官としての視点の両方を持つ慶應義塾大学の田口眞男氏が、産学連携を取り巻く今を鑑みながら、効果的かつ円滑に進めていくためのマネージメントの視点を提示した。
(記事構成は伊藤元昭)

田口 眞男(たぐち まさお)
慶應義塾大学 訪問教授

1976年に富士通研究所に入社とともに半導体デバイスの研究に従事、特に新型DRAMセルの開発でフィン型のキャパシタ、改良トレンチ型セルの開発など業界で先駆的な役割を果した。1988年から富士通で先端DRAMの開発・設計に従事。高速入出力回路や電源回路などアナログ系の回路を手掛ける。DDR DRAMのインターフェース標準仕様であるSSTLの推進者であり、命名者でもある。2003年、富士通・AMDによる合弁会社FASL LLCのChief Scientistとなり米国開発チームを率いてReRAM(抵抗変化型メモリー)技術の開発に従事。2007年からSpansion Japan代表取締役社長、2009年には会社更生のため経営者管財人を拝受。エルピーダメモリ技術顧問を経て2011年10月より慶應義塾大学特任教授、2016年4月からは同大学 訪問教授と共に、技術開発とコンサルティングを請け負うMTElectroResearchを主宰。

【質問1】研究開発の現場同士ではなく、企業と大学それぞれのトップが進める大がかりな産学連携は必要だと思われますか。
【回答】特定テーマでは必要。産学連携はプロジェクトマネージメントが課題

【質問2】学術分野を超えた技術開発や社会実装法の策定を大学と連携して進めることに意義を感じますか。
【回答】大学はシンクタンクになりつつあり、意義を感じる

【質問3】日本の企業は、グローバルな競争力を養うため、国内や世界の大学とどのように連携していくべきでしょうか。
【回答】多様なスタイルがあり得るので特定は難しい