ソフトバンクは、トップダウンで決めた果敢な戦略・戦術を実践できる会社である。同社は、インターネットが一般家庭に普及し始めた時、ブロードバンド通信サービス事業のYahoo!BBを立ち上げるため、街頭でADSLモデムを無料配布した。これは、既存の通信事業者が強大な力を持っていた当時の通信業界に、強烈なくさびを打ち込む戦略として有効だった。また、サービスの利用者の数を迅速に確保し、自社のサービス基盤を競合が追いつけないようなスピードで作り上げる戦術として有効だった。
ネット時代のサービス事業の勝敗は、利用者の数が決める。例えば、Google社はさまざまな無料サービスの提供で莫大な数の利用者を確保し、その数を背景にした巧妙なビジネスモデルで収益を上げている。利用者数が、戦略の選択肢を広げる世界なのだ。来たるべきIoT時代も数での支配の有効性は普遍であり、しかもケタ違いに大きな数をサービス事業社間で競うことになるだろう。
今回の回答者であるIHSテクノロジーの南川 明氏は、ソフトバンクによるARM社買収を、同社がGoogle社などIT業界の巨人に挑むための布石とみる。そして、今回の買収で得たARMコアをどのように活用するのか、そしてそれが半導体業界や電子業界にどのようなインパクトを及ぼすのか考察した。(記事構成は伊藤元昭)
IHSテクノロジー 日本調査部ディレクター
1982年からモトローラ/HongKong Motorola Marketing specialistに勤務後、1990年ガートナー ジャパン データクエストに移籍、半導体産業分析部のシニアアナリストとして活躍。その後、IDC Japan、WestLB証券会社、クレディーリヨネ証券会社にて、一貫して半導体産業や電子産業の分析に従事してきた。2004年には独立調査会社のデータガレージを設立、2006年に米iSuppli社と合併、2010年のIHSグローバル社との合併に伴って現職。JEITAでは10年以上に渡り,世界の電子機器と半導体中長期展望委員会の中心アナリストとして従事する。定期的に台湾主催の半導体シンポジウムで講演を行うなど、アジアでの調査・コンサルティングを強化してきた。