東芝のいわゆる「不適切会計問題」によって、同社の半導体事業にどのような影響が及ぶのかを考えるテクノ大喜利。今回の回答者は、同業者の目線からお答えいただくルネサス エレクトロニクスの清水洋治氏である。同業者であるため、答えにくいテーマではあるが、会社屋台骨が揺らぐ事態に直面し、まずどのような点に懸念を抱くのか、東芝の社員に目線を合わせてお答えいただいた。(記事構成は伊藤 元昭)
ルネサス エレクトロニクス
【質問1の回答】影響は予想できない
半導体産業自体には「水物」的な側面がある。ブームに乗って爆発的に売れる場合もあれば性能がどんなに良くても売れない場合もある。東芝の主力半導体はNANDフラッシュメモリーである。用途は多岐にわたっており、無ければ最終製品が作れなくなってしまう極めて重要な役割を担っている。代替え製品で補えることができれば、置き換えが起こる場合もあるだろうし、本当に必要なものならば、純然と使われ続けるはずだ。
半導体メーカーに身を置く者として、このテーマで考えさせられたことがある。すぐに置き換えが利くような半導体は、有事の際には、真っ先に置き換えの対象になってしまうということである。唯一無二の製品ならば、早々に置き換えられてしまうこともない。「Android」「ARMプロセッサー」などによって、この数年多くの半導体は、ハードばかりでなく、ソフト、アプリ、環境面も含めて「標準化」が進んでいる。こうした状況を活用して、中国でもアジアでも、ほぼ最先端のプロセッサーを作ることができるようになった。その上にさらに膨大なデータベースが構築されることで「エコシステム」ができている。
しかしこのエコシステムは、利点もあれば欠点もある。利点は再利用性の高さ、拡張の早さという面。欠点は似たものにあふれ、差異化、独自性を弱めていく側面だ。東芝問題の影響は、同社の製品の中に、どれだけ置き換えが困難な素材があるかを考えることに尽きる。慎重に考えねばならないテーマなので「予想はできない」とさせていただきたい。