東芝のいわゆる「不適切会計問題」によって、同社の半導体事業にどのような影響が及ぶのかを考えるテクノ大喜利。今回の回答者は、コンサルタントの立場からお答えいただくアーサー・D・リトルの三ツ谷翔太氏である。長期的な視野に立った、同社の経営に与える影響と、行うべき施策を指摘していただいた。(記事構成は伊藤 元昭)

三ツ谷翔太(みつや しょうた)
アーサー・D・リトル(ジャパン) プリンシパル
 世界最初の経営戦略コンサルファームであるアーサー・D・リトルにて、エレクトロニクス産業を中心とした製造業に対する新規事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の立案支援、ならびに経済産業省を中心とした官公庁に対する産業政策の立案支援に従事。

【質問1】今回の問題によって、東芝の半導体事業にはどのような影響が及ぶ可能性があると思われますか?
【回答】企業の持続的成長の根幹を支える、勝ちパターンの毀損

【質問2】不安要因と不確定要因を抱えながら、東芝の半導体は、どのような戦略や戦術の変更が必要になると思われますか?
【回答】ガバナンス体制の立て直し以外に本質的な解は無し

【質問3】製造装置や材料のサプライヤー、または同社製品のユーザーに、どのような影響が及ぶと思われますか?
【回答】日本における川上・川中産業の競争力へのマイナス効果

【質問1の回答】企業の持続的成長の根幹を支える、勝ちパターンの毀損

 事業成長の観点から捉えた今回の件の最大の影響は、同社がこれまでに培ってきた勝ちパターン、並びに今後培おうとしていた勝ちパターンの毀損であるように思える。企業の成長の根幹には、その成長を支える各社固有の勝ちパターンが存在する。そして、これは通常長い年月を掛けて培われるものである。なお、アーサー・D・リトルでは、これを各社らしいイノベーションの創出基盤であると捉えて、“イノベーション・プラットフォーム”と称している。企業が持続的に成長を続けるためには、この勝ちパターンに立脚した戦略の策定と推進が必要であるという考え方だ。その観点からすると、勝ちパターンの毀損は持続的な成長機会をも毀損するものである。

 以前の論考で述べたように、東芝がこれまでに培ってきた勝ちパターンはいくつか挙げることができる。代表的なものとしては、「経営トップの大胆な意思決定による大型投資の継続実行」であり、これはNANDフラッシュメモリー事業などで求められる成功要因とマッチしていた。しかしながら、今回の件で株式市場からの評価が下がれば、結果的に資金調達の観点から難が生じることが懸念される。また、もうひとつの勝ちパターンとして、特に先端ラインにおける「材料メーカーや装置メーカーとの信頼関係に立脚した連携開発」が挙げられる。これもサプライヤーから見た信頼が低下すれば毀損してしまう。

 また、先を見据えてみると、同社が今後培おうとしていた勝ちパターンは、NANDフラッシュの応用拡大に向けた、無線LAN機能付きメモリーカード「FlashAir」向け開発環境の提供などに代表される「応用を広げてくれる外部開発者のエコシステムの構築」であるように見える。このような開発環境は産業のオープン・プラットフォーム(換言すればアプリ産業にとってのインフラ)としての特性を持つ。このため、その提供主体であるプラットフォーマーには、公平性や透明性が求められるものだ。しかし、残念ながら今回の一件は同社のガバナンスの不透明さが露呈したものであり、プラットフォーマーとしてはあってはならないものと言わざるを得ない。

 つまり、今回の件の影響は一過的なものではなく、同社が長い歴史を掛けて培ってきた、また、培おうとしていた勝ちパターンの毀損であり、表面的な財務的な影響以上のインパクトを持つものと認識し、その対応を進めるべきだ。