東芝のいわゆる「不適切会計問題」によって、同社の半導体事業にどのような影響が及ぶのかを考えるテクノ大喜利。今回の回答者は、半導体業界の世論を率直に伝える視点から微細加工研究所の湯之上 隆氏お答えいただいた。(記事構成は伊藤 元昭)
微細加工研究所 所長
【質問1の回答】短期的には影響は小さいが、長期的に競争力を失う
東芝は、ここ10年間で私が最も注意深く観察してきた企業である。それは、日本で海外と互角に戦っている数少ない半導体メーカーであるからだ。それ故、東芝からの要請により、10回以上講演し、またある時期は1カ月に1回程度、助言をするなど支援をしてきた。
その過程で、非常に気になることがあった。それは、東芝が傲慢症候群に陥っているということである。東芝は、NANDフラッシュメモリーの成功で、天狗になっているのではないか。そして、その傲慢さは、サプライヤーに対するときに最大限に発揮される。
例えば、サプライヤーの営業に強引に接待を強要したり、装置メーカーに「評価機をタダでもってこい」と要求したり、装置の移設の際の工事費を押し付けたり、注文書も覚書もなく「装置を○○台準備しろ」と要求したり、市況が変化するとその要求を勝手に取り下げたり、導入した装置の検収をズルズル引き延ばしたり、サービスエンジニアを奴隷のようにこき使ったり・・・。
サプライヤーを取材すると、こんな話が四方八方から聞こえてくる。ある装置メーカーの元幹部は、「東芝の工場は、まるでやくざの組織だ」とまで言った。「驕れる者久しからず」と言う。東芝の傲慢さは、いつの日か、身を滅ぼす原因になると懸念し続けていた。そのようなときに、粉飾会計の問題は起きた。私は、「不適切会計」や「不正会計」と言う言い方は不適切だと思う。「粉飾会計」こそが相応しい。
私は、今回の問題をきっかけにして、東芝の傲慢症候群が粛清されることを期待した。社会的制裁により一時的に元気が失われるかもしれないが、きっといい方向に向かうのではないか、そう思った。ところが、私が知る限りでは、東芝の傲慢さは、以前と何も変わっていない。特に、四日市工場では、粉飾会計を行ったのはシステムLSIやディスクリートであり、「俺たちは関係ない」と思っている節がある。
システムLSIやディスクリート部門では、事業縮小または撤退など何らかの処分があるかもしれないが、NANDフラッシュなどのメモリー部門はおとがめなしで、今後も傲慢的な振る舞いを続ける可能性が高い。したがって、メモリー部門について短期的には影響はない。しかし、以前から懸念されていた傲慢さは是正されないため、長期的には競争力を失っていくのではないか。