設備投資や直接事業に携わる人材の人件費に比べて、情報投資はいつの世も軽視されがちだ。しかし実際には、情報投資の重要性は、他の投資項目よりもはるかに高い。的を外した設備投資や人員配置は、百害あって一利なしである。孫子の用間篇の中に次のような言葉がある。「爵禄百金を愛みて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり」。現代語訳すれば、「情報収集への投資を惜しんで、敵の動きをつかもうとしない者は、指揮官失格である」となろうか。情報戦と、それに向けた惜しみない投資の重要性を説いた一節である。実際、歴史の中で語られる勝者は、いつも情報投資に寛容だった。

 今回の回答者であるIHSテクノロジーの大山 聡氏は、ソフトバンクが投じた約3.3兆円という莫大な投資の価値を、情報投資という側面から論じた。M&Aの投資価値は、現在の事業の業績や保有している資産を基に論じることが多い。しかし、これから長く続くIoT市場での戦いを有利に進めるための橋頭堡を築くための投資では、こうした指標で妥当性を判断することはできないのではないか。(記事構成は伊藤元昭)

大山 聡(おおやま さとる)
IHSテクノロジー 主席アナリスト

1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年より現職で、二次電池をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。

【質問1】ソフトバンクは、IoTに関連する業種、企業が数ある中で、なぜ半導体業界のARMを買収したいと思ったのでしょうか。
【回答】単なる通信キャリアでは、IoT市場で付加価値(利益)を追求しにくい、と考えたのではないか

【質問2】ソフトバンクがARMを買収することで、最も影響を受ける企業はどこでしょうか。
【回答】直接影響を受ける企業はなさそうだが、同業他社の通信キャリア各社は相対的に伸び悩む可能性がある

【質問3】ソフトバンクによるARMの買収は、半導体業界にとって幸せな結果をもたらすのでしょうか。
【回答】今回の買収が直接の原因ではないが、アナログIC分野での競合が激化する可能性がある