今回のテクノ大喜利では、人工知能システムのハードウエア、特に人工知能を宿すチップを取り巻く動きについて議論している。

 人間の知性を“完コピ”する技術こそが、至高の人工知能技術だと考える風潮がある。確かに、“完コピ”するためには、極めて高度な技術が必要になるだろう。しかし、なぜ人間の知性が至高なのか。そもそも、これこそが人間のおごりであり、シンギュラリティ脅威論の元凶なのではないか。

 匂いを嗅ぐ能力では、人間は犬の足元にも及ばない。俯瞰した風景の中から、小さな獲物を見つける能力も鷹にはかなわない。そもそも、同じ人間でも、知覚能力、直感力、判断力にだって個人差がある。つまり、生物の知性は、下等生物から高等生物へと一直線の筋道で進化するものではない。多様な能力や知性が現れ、環境の変化の中で取捨選択されて、たまたま今人間が君臨しているにすぎない。

 犬の嗅覚も、鷹の認識能力も、システムとして実現できれば、IoT時代に画期的な応用を生み出すことだろう。人間とは似ていない非なる多様な知性こそが、人間の知性を補完し、これから直面するさまざまな問題を解決する上でのパートナーになるのではないか。今回は、慶應義塾大学の田口眞男氏が、人工知能の多様性という見地から、人工知能チップとそれを生み出す体制について論じる。(記事構成は伊藤元昭)

田口 眞男(たぐち まさお)
慶應義塾大学 訪問教授

1976年に富士通研究所に入社とともに半導体デバイスの研究に従事、特に新型DRAMセルの開発でフィン型のキャパシタ、改良トレンチ型セルの開発など業界で先駆的な役割を果した。1988年から富士通で先端DRAMの開発・設計に従事。高速入出力回路や電源回路などアナログ系の回路を手掛ける。DDR DRAMのインターフェース標準仕様であるSSTLの推進者であり、命名者でもある。2003年、富士通・AMDによる合弁会社FASL LLCのChief Scientistとなり米国開発チームを率いてReRAM(抵抗変化型メモリー)技術の開発に従事。2007年からSpansion Japan代表取締役社長、2009年には会社更生のため経営者管財人を拝受。エルピーダメモリ技術顧問を経て2011年10月より慶應義塾大学特任教授、2016年4月からは同大学 訪問教授と共に、技術開発とコンサルティングを請け負うMTElectroResearchを主宰。

【質問1】人工知能チップの開発と実用化に際して、どのような企業にどのようなチャンスが生まれると思われますか。
【回答】社会ニーズのつかみ方が上手い企業が、半導体の存在を意識させないビジネスを展開

【質問2】水平分業型と垂直統合型、人工知能システムのバリューチェーンはどのような形に収束すると思われますか。
【回答】 AIの付加価値部分だけを専業とするプレイヤーが現れて水平分業が定着、一方ニッチ市場向けには門外不出技術を使った垂直統合型が百花繚乱する

【質問3】人工知能チップの技術開発や事業化は、民生機器や産業機器など組み込み機器の開発やビジネスにどのようなインパクトを及ぼすと思われますか。
【回答】軒先貸して母屋を取られる恐れを常に抱き、組み込み機器でも離合集散の協業状態になる