私的な思い出話で恐縮だが、私は子供のころ、あまりにも親の話を聞かないことを見かねた父に次のように諭されたことがある。「いいことを教えやるよ。大人の言うことは大体正しい。だからしっかりと話を聞け。でも大体なんだから、自分でもよく考えろ」。最後の一言が本当に必要だったかどうかは定かではない。しかし、その部分が一番印象に残り、今でも鮮明に覚えている。

 半導体チップほど、さまざまな分野の専門家や権威者の英知を集めて作られている工業製品は少ないのではないか。電子工学、化学、物性物理学、情報処理学、制御工学・・・。それぞれの分野の最新の研究成果が投入されている。そして、高度な各分野の知見が投入されているが故に、畑違いの分野については同じ半導体技術者であっても意外と深く理解していない。

 このため、新しいアイデアを思いついても、その道の権威が「それは無理だ」と言い出したら最後、反論することもできないままお蔵入りになることが多い。特に、半導体の製造プロセスで新しいアイデアを試すために巨額の費用がかかるようになってからは、そうした安全志向の判断が働く傾向が強まったのではないか。その道の権威の意見は、正しい筋道で技術開発を進める上で有用だ。しかし、無批判に鵜呑みにしてしまうと、技術の進歩はない。

 「半導体、Å時代はくるのか?」と題して、半導体のÅ時代の意義と、そこでの課題を洗い出している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は、微細加工研究所の湯之上隆氏である。同氏は、革新的な技術が次々と現れて進化し続けてきた半導体の微細加工技術開発の歴史を振り返り、これからの技術開発にどのような心構えで取り組むべきかを論じた。

(記事構成は、伊藤元昭=エンライト
湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上 隆(ゆのがみ たかし)  日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北−零戦・半導体・テレビ−』(文書新書)。趣味はスキューバダイビング(インストラクター)とヨガ。
【質問1】14Åノードのテクノロジードライバーとなる半導体チップは何だと思われますか?
【回答】 AI半導体かとも思うが、正直なところ予測できない。
【質問2】14Åノードプロセスを確立する上で、最大の課題は何だと思われますか?
【回答】第1に心理的な障壁、第2に専門家や権威者が壁となる。
【質問3】サブnmのÅ時代はやってくると思われますか?
【回答】やってくると信じよう。