今回のテクノ大喜利では、最近にわかに騒がしくなってきた、人工知能システムのハードウエア、特に人工知能を宿すチップを取り巻く動きについて議論する。

 現在の人工知能の多くは、従来構造のハイエンドサーバーを並べた強力なハード上で動いている。そして、技術開発競争の力点は、ディープラーニングなど学習のアルゴリズムや、学習教材となるデータを集めるIoTシステムなどに置かれている。しかし、学習や、さまざまな応用での処理を実用化するには、既存のコンピューターは余りにも非力で、電力効率が悪すぎる。できれば、IoTのデータ収集側でも、最小限の消費電力で、現場の状態を学習できる人工知能システムを実現したいところだ。

 人工知能向けに特化したチップは、こうした課題を解決するためのブレークスルーとなると期待されている。今、人工知能向けのチップに関連する動きには、大きく2つのアプローチがあるように見える。

 1つは、GPUやFPGAなど、超並列処理の実行に向いた構造を持つ既存の半導体デバイス、またはその延長線上のチップを使って、人工知能向けチップの市場を早期に立ち上げようとする動きである。このアプローチを採る代表的な企業がNVIDIA社だ。自社チップを人工知能時代の業界標準チップに押し上げるべく、あの手この手の方策を採っている。このアプローチでは、パソコンなどと同様に、サービス、機器、チップが水平分業化したバリューチェーンの形成を目指している。

 もう1つは、クラウドサービスの事業者が、自社用の専用チップを自社開発する動きである。この方向性を採る代表的な企業がIBM社だ。同社は、コグニティブ・コンピューティングの中核を占める脳の構造を模したニューロモーフィック・デバイス「TrueNorth」を自社開発している。この方向性は、バリューチェーンを垂直統合化させている点が特徴である。

 こうした人工知能チップを巡る動きは、次世代のコンピューティング・ビジネスの形を固めていくプロセスの一端であり、半導体産業などの行く末に大きな影響を及ぼすことだろう。今回のテクノ大喜利では、「AIチップは誰が作る?」と題して、近い将来の情報処理システム周辺の業界構造について議論する。最初の回答者は、野村證券の和田木哲哉氏である。(記事構成は伊藤元昭)

和田木 哲哉(わだき てつや)
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター
 1991年東京エレクトロンを経て、2000年に野村證券入社。アナリストとして精密機械・半導体製造装置セクター担当。2010年にInstitutional Investor誌 アナリストランキング1位、2011年 日経ヴェリタス人気アナリストランキング 精密半導体製造装置セクター 1位。著書に「爆発する太陽電池産業」(東洋経済)、「徹底解析半導体製造装置産業」(工業調査会)など

【質問1】人工知能チップの開発と実用化に際して、どのような企業にどのようなチャンスが生まれると思われますか。
【回答】軍需応用型産業

【質問2】水平分業型と垂直統合型、人工知能システムのバリューチェーンはどのような形に収束すると思われますか。
【回答】パソコンに近い形になる

【質問3】人工知能チップの技術開発や事業化は、民生機器や産業機器など組み込み機器の開発やビジネスにどのようなインパクトを及ぼすと思われますか。
【回答】後世、「ここが潮目」と思われるような変化をもたらす