イノベーションは、目を見張るような技術革新だけを意味する言葉ではない。来たるべき、スマホ市場の成熟に対応し、そこで勝ち抜くためには、相応の切り口からのビジネス上のイノベーションが必要になるだろう。
「草創と守成といずれが難きや」。これは、徳川家康が愛読したことで知られる中国の古典『貞観政要』の中にある言葉である。中国史上屈指の名君と評される唐王朝2代皇帝 李世民(太宗)が臣下に問いただした言葉であり、「新しい王朝を作り出すのと、既にある王朝を守り抜くのといずれが難しいのか」という意味になろうか。議論紛糾する臣下たちを見渡し、太宗は「もはや創業の時代は過ぎ去った。今後はみんなと共に守り抜くための困難に取り組んでいきたい」と、時代の変化に合わせた発想の転換を求めたという。
成功体験にとらわれがちな日本の企業は、こうした発想の転換が得意ではない。特に電子産業では、技術の進歩が停滞し、市場が飽和しても、性能や機能での優位性を誇った過去の勝ちパターンを踏襲し続ける傾向がある。ユーザーを置いてきぼりにする自称画期的な機能を提案する例は、数え切れないくらいある。創業期のスマホの覇者が、成熟期にも覇者であり続ける保証はどこにもない。確かにApple社やSamsung Electronics社は強大であり、部品サプライヤーにも圧倒的な強みを誇る企業がある。それでも成熟期に適応したイノベーションで新たな覇者が生まれる可能性は十分ある。今回は、アーサー・D・リトルの三ツ谷翔太氏が、成熟期のスマホ関連市場での競争の論点を論じる。(記事構成は伊藤元昭)
アーサー・D・リトル(ジャパン) プリンシパル