同じ半導体産業にくくられる事業でも、現在のトップ企業である米Intel社のプロセッサービジネスと、トップの座を伺う韓国Samsung Electronics社のメモリービジネスでは、大きく性格が異なる。Samsung社について考察するためには、メモリービジネスとは何なのか、その特徴を理解する必要がある。

 電子産業の数あるビジネスの中でも、DRAMやNANDフラッシュメモリーなどメモリービジネスは、かなり特殊なビジネスであると言える。ジェットコースターのように激しく変動する市況をにらみながら、数千億円、数兆円といった判断を誤れば会社が一発で破綻するような巨額の投資をして成功シナリオを模索しなければならない。これに類したビジネスは、液晶パネルビジネスくらいなものだ。

 Samsung社は、メモリービジネスと液晶パネルビジネスの両方でトップ企業である。しかもトップ企業であり続けている。メモリーも液晶パネルも、競争力の高い製品を作る上で高い技術力は欠かせない。しかし、技術力だけでは、これらのビジネスでトップの座を維持することはできない。日本企業が、メモリーでも液晶パネルでも敗退していった理由は、この技術力以外の部分にある。

 「なぜSamsungは、いつも強いのか?」と題して、米Intel社を抜いて半導体売り上げトップに躍り出る公算が高まっている同社の強さを議論している今回のテクノ大喜利。2番目の回答者は、微細加工研究所の湯之上 隆氏である。同氏は、Samsung社がなぜメモリービジネスのチャンピオンになったのか、その理由を分析。そして、同事業に欠かせない果敢かつ理性的な意思決定を下すトップが不在の状況となっている同社の危うさを論じる。

(記事構成は、伊藤元昭=エンライト
湯之上 隆(ゆのがみ たかし)
微細加工研究所 所長
湯之上 隆(ゆのがみ たかし)  日立製作所やエルピーダメモリなどで半導体技術者を16年経験した後、同志社大学で半導体産業の社会科学研究に取り組む。現在は微細加工研究所の所長としてコンサルタント、講演、雑誌・新聞への寄稿を続ける。著書に『日本半導体敗戦』(光文社)、『電機・半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北−零戦・半導体・テレビ−』(文書新書)。趣味はSCUBA Diving(インストラクター)とヨガ。
【質問1】Samsung社は、なぜ長期にわたって高い競争力を維持できるのでしょうか?
【回答】世界中から情報を収集し、その情報を分析し、その結果を基にトップが迅速で果断な決断を行う、という当たり前のことが普通にできるから強い。
【質問2】Samsung社の弱点があるとすれば、どこにあると思われますか?
【回答】情報収集、その分析、それに基づく迅速で果断な決断ができる経営者がいること、これらのどこかに綻びが生じたとき、サムスン電子の崩壊が始まる。
【質問3】これからしばらく、Samsung社はトップであり続けると思われますか?
【回答】5年以上はSamsungの天下が続く。