世界が注目した米Google傘下の英 DeepMind社のAI「AlphaGo」とトップ囲碁棋士Lee Sedol氏の対局で印象的な場面があった。AlphaGoの3連勝で迎えた第4局、後に会心の一手と評されたSedol氏の78手目から続く手筋によって、AlphaGo優勢と見られていた形成が逆転し、その後AlphaGoは迷走し悪手を連発した。そして、Lee氏が唯一の勝利をもぎ取った。最終的には4勝1敗でAlphaGoが勝利したが、形成が不利になってからの迷走は、ある意味AIらしい慌てぶりだった。

 AlphaGoはその後さらに強くなり、ネット上で謎の棋士「Master」となって、日中韓のトップ棋士を相手に60戦無敗という戦績を挙げ話題になった。AIは進化する。しかし、完全ではない。工場や開発現場では、さまざまな不測の事態が起きる可能性がある。人間が不測の事態に対処しても完全な対応など望むべくもない。AIの方が、よほど的確な判断を下すかも知れない。怖いのは、AIが完全であると信じ込むことだ。東日本大震災において、安全神話を信じて取り返しのつかない事態に陥った福島第一原発、大津波を防ぎきれると信じていた田老町の防潮堤の教訓を、身近なところでも忘れないでいたい。

 AI時代の製造業、特に日本の強みについて議論している今回のテクノ大喜利。7番目の回答者は、慶應義塾大学の田口眞男氏である。同氏は、すべてをAIに頼り切ることのない、人間とAIのつかず離れずの距離を保った関係を前提とした、AI活用法を論じている。

(記事構成は、伊藤元昭=エンライト
田口 眞男(たぐち まさお)
慶應義塾大学 訪問教授
田口 眞男(たぐち まさお)  1976年に富士通研究所に入社とともに半導体デバイスの研究に従事、特に新型DRAMセルの開発でフィン型のキャパシタ、改良トレンチ型セルの開発など業界で先駆的な役割を果した。1988年から富士通で先端DRAMの開発・設計に従事。高速入出力回路や電源回路などアナログ系の回路を手掛ける。DDR DRAMのインターフェース標準仕様であるSSTLの推進者であり、命名者でもある。2003年、富士通・AMDによる合弁会社FASL LLCのChief Scientistとなり米国開発チームを率いてReRAM(抵抗変化型メモリー)技術の開発に従事。2007年からSpansion Japan代表取締役社長、2009年には会社更生のため経営者管財人を拝受。エルピーダメモリ技術顧問を経て2011年10月より慶應義塾大学特任教授、2016年4月からは同大学 訪問教授と共に、技術開発とコンサルティングを請け負うMTElectroResearchを主宰。
【質問1】AI時代の製造業では、研究開発や生産の競争要因はどのように変わるのか?
【回答】 AI導入は大前提、AIの使い方しだいで大いに変わる。
【質問2】製造業でのAI活用の本格化で、新たな事業機会が生まれる業種・職種は?
【回答】新しいビジネスモデルを導入できる業種。
【質問3】AI活用の本格化による、日本の製造業の国際競争力への影響は?
【回答】開発段階の優位性は保たれるが、国際競争力はAIとは別のファクターで決まる。