「DRAMなど半導体の製造には、一朝一夕ではまねできない技術のノウハウがある。新規参入企業がいくらお金を使ったとしても、簡単にはいかない」。日本の半導体産業の全盛期、半導体事業に注力する韓国企業の動きを横目に、日本の半導体メーカーのトップはこのように一笑に付した。亀山ブランドの液晶テレビで世界を席巻しようとしていた時期のシャープ 社長の町田勝彦氏は、「生産技術は現場で長年培った経験やコツ、ノウハウがものをいう世界。生産技術はいわば老舗うなぎ屋の秘伝のタレみたいなものだ。自前でコツコツ積み上げていくものである」と言った。日本企業が信じた、技術のノウハウ、うなぎ屋の秘伝のたれの強みとは、一体何だったのか。

 半導体産業や液晶パネル産業は、生産技術において、暗黙知や擦り合わせが極めて重要な産業だった。過去の経営者が言っていた言葉に偽りはないだろう。しかし、それは信じていたほど特別な強みを保障してくれるものではなかった。AI(人工知能)活用の広がりは、これまで特定の企業が持っていた強みをコモディティー化する可能性がある。日本の半導体産業や液晶パネル産業で起きたことは、他産業でも起きる可能性がある。今の惨状を、他業界の企業は、これは他業界の話しと笑い飛ばすことができるのだろうか。

 AI時代の製造業、特に日本の強みについて議論している今回のテクノ大喜利。3番目の回答者は、服部コンサルティング インターナショナルの服部 毅氏である。日本の半導体産業の全盛期とその後の衰退をつぶさに見てきた同氏は、暗黙知と擦り合わせでの強みに寄って立っていた日本の半導体産業のこれまでの経緯から学べることは何かを語る。

(記事構成は、伊藤元昭=エンライト
服部毅(はっとり たけし)
服部コンサルティング インターナショナル 代表
服部毅(はっとり たけし)  大手電機メーカーに30年余り勤務し、半導体部門で基礎研究、デバイス・プロセス開発から量産ラインの歩留まり向上まで広範な業務を担当。この間、本社経営/研究企画業務、米国スタンフォード大学 留学、同 集積回路研究所客員研究員なども経験。2007年に技術・経営コンサルタント、国際技術ジャーナリストとして独立し現在に至る。The Electrochemical Society (ECS)フェロー・理事。マイナビニュースや日経テクノロジーオンラインなどに、グローバルな見地から半導体・ハイテク産業動向を随時執筆中。近著に「メガトレンド半導体2014-2023(日経BP社)」「表面・界面技術ハンドブック(NTS社)」「半導体・MEMSのための超臨界流体」(コロナ社)がある(共に共著)。
【質問1】AI時代の製造業では、研究開発や生産の競争要因はどのように変わるのか?
【回答】劇的に変わる。
【質問2】製造業でのAI活用の本格化で、新たな事業機会が生まれる業種・職種は?
【回答】半導体に限れば、擦り合わせ型製品であるアナログICや非IC。産業全体では擦り合わせが重要な全産業、特に自動車や農業。
【質問3】AI活用の本格化による、日本の製造業の国際競争力への影響は?
【回答】弱体化する。