日本の製造業の強みの源泉として、ノウハウや経験といった他社がまねできない固有の「暗黙知」を持ち、それに基づいて部品間の仕様や生産工程間の運用の「擦り合わせ」をエレガントにこなすことができる点が挙げられていた。こうした強みは、豊富な現場経験で養われることから、外部企業から調達することができない固有の強みであり、自社で地道に蓄積していくべき強みであった。

 現在、AI(人工知能)システムの導入を考えるものづくり企業の多くが、熟練技術者の知恵を継承するためにAIを使おうとしている。熟練技術者の知恵をAIに映すということは、知恵をシステム化して流動性を高めることでもある。他社がまねできないと思っていた強みが簡単に模倣できるようになる、逆に自社内でしか養えないと思っていた強みを他社から調達できる。こうした時代に、日本企業はどのようにAIを活用していったらよいのだろうか。

 AI時代の製造業、特に日本の強みについて議論している今回のテクノ大喜利。2番目の回答者は、アーサー・D・リトルの三ツ谷翔太氏である。同氏は、AIによる暗黙知の流動性の増大という、新しい視点からAI時代の暗黙知のマネージメントのあるべき姿について論じる。

(記事構成は、伊藤元昭=エンライト
三ツ谷翔太(みつや しょうた)
アーサー・D・リトル(ジャパン) プリンシパル
三ツ谷翔太(みつや しょうた)  世界最初の経営戦略コンサルファームであるアーサー・D・リトルにて、エレクトロニクス産業を中心とした製造業に対する新規事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の立案支援、ならびに経済産業省を中心とした官公庁に対する産業政策の立案支援に従事。
【質問1】AI時代の製造業では、研究開発や生産の競争要因はどのように変わるのか?
【回答】ものづくりは「閉じて磨く」時代から「共有して磨く」時代へ。
【質問2】製造業でのAI活用の本格化で、新たな事業機会が生まれる業種・職種は?
【回答】ものづくり企業は知恵を外販するサービス企業に転換する。
【質問3】AI活用の本格化による、日本の製造業の国際競争力への影響は?
【回答】受け身では強みは棄損。能動的なものづくりの再定義が必要。