AI(人工知能)システムの活用を見据えて、先進的ユーザー企業と大手ICTベンダーが、盛んに実証実験を実施している。そして、先行実施した実証実験の結果から、AIシステムの効果的な使いどころがハッキリとしてきた。ICTベンダーの担当者は、豊富な現場経験を持つ熟練者の属人的知恵である「暗黙知」の扱い、さらには数多くの要因が複雑に絡み合う課題での「擦り合わせ」こそが、AIシステムの導入効果が最も大きな領域だと言う。
ちょっと待って欲しい。「暗黙知」と「擦り合わせ」は、日本の製造業の強みの源泉とされてきたことではなかったか。製造業には、日本企業が得意とする属人的「暗黙知」に基づく「擦り合わせ」を強みとしたものづくりと、欧米企業が得意とするシステム化が可能な「形式知」を活用した「モジュール型」ものづくり、という対極的パラダイムがある。製造業でのAIシステムの活用は、情報システムが「擦り合わせ」を推し進める、新機軸のものづくりを生み出す可能性を感じさせる。こうしたAIシステムの普及は、日本の製造業のあり方を大きく揺さぶるのではないか。
今回のテクノ大喜利では、AI時代の製造業での競争の論点やその中での日本企業の強みを洗い出すことを目的として、「AIで崩壊?ニッポンの製造業」という少々刺激的なテーマで議論する。1番目の回答者は、野村證券の和田木哲哉氏である。アナリストとしての担当分野である半導体製造装置、生産技術でのAI活用を題材に、日本企業が現在置かれている状況に警鐘を鳴らし、さらにはピンチをチャンスに変えるための提言を披露した。