米国でトランプ大統領が就任して、約2カ月経過した。その間、7カ国からの入国禁止令や国境の壁の建設指示、そしてTPP脱退と、次々と打ち出される大統領令や毎日のように直接発せられるツイッターに、世界中が振り回されている。そして、世界の中での米国のあり方が急激に変わる予感を誰もが感じている。
トランプ大統領は選挙中、専門技術を持つ外国人が米国で働くのに必要な就労ビザ「H-1B」の原則廃止か規制強化を公約している。現時点で、具体的な動きが顕在化しているわけではないものの、選挙中の公約が粛々と実行に移されていることから、実施によって大きな打撃を受けるだろうIT企業などに不安が広がっている。Apple社やGoogle社、Facebook社など127社は、こうした施策が「米企業が世界で最も優秀な人材を採用し、引き留めることを困難にする」との意見書を連邦控訴裁に出した。
これまで米国、とりわけシリコンバレーは、世界中の知が集まり交わる「知の交差点」であったことが、イノベーション創出の素地となっていた。トランプ大統領の打ち出す施策がすべて実行されるわけではないが、外国人にとっても「自由と夢の国」だった米国が永遠ではないことを世界に印象付けたことは確かだ。
現在、世界の電子業界は、人工知能、IoT、ロボット、自動運転、電気自動車のような、労働問題やエネルギー問題、医療問題、防衛など、政策の方向性に大きく左右される応用に向けた技術を成長軸に据えている。政策の急変は、こうした技術の行方にも何らかの影響を及ぼす可能性がある。その一方で、Tesla社のElon Musk氏やソフトバンクの孫正義氏のように、トランプ大統領の出現を新しい成長に向けた奇貨と捉える人たちもいる。
トランプ政権の施策によって、電子業界にどのような影響が及ぶ可能性があるのか。さまざまな視座から見える変化のポイントをブレインストーミングすることが、今回のテクノ大喜利のテーマである。最初の回答者は、野村證券の和田木哲哉氏である。
(記事構成は、伊藤元昭=エンライト)
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター