老舗ITベンダーのクラウド戦略が大きな転換点を迎えている。米Hewlett-Packard Enterpriseが2016年1月にパブリッククラウドから撤退する一方、Larry Ellison会長兼CTO(最高技術責任者)率いる米Oracleは、最大手米Amazon Web Services(AWS)に正面から対抗する構えだ。

 「Oracle Elastic Compute Cloud」。Oracleが2015年10月に発表したIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の新サービス名が、米国のIT業界で話題になっている。AWSの仮想マシンサービスである「Amazon EC2」の正式名称が「Amazon Elastic Compute Cloud」だからだ。Oracleの新サービス名はAWSと完全に同じである。

写真●米OracleのLarry Ellison会長兼CTO(最高技術責任者)
写真●米OracleのLarry Ellison会長兼CTO(最高技術責任者)
[画像のクリックで拡大表示]

 AWSがAmazon EC2を開始したのは2006年のこと。OracleのEllison会長も年次イベント「Oracle OpenWorld 2015」の基調講演で、「インフラストラクチャーサービスのパイオニアはAmazonだ」とはっきり認める(写真)。OracleがAWSと同じ「パブリッククラウド」の土俵で対抗していくという姿勢を、サービス名称でも示した格好だ。

Oracleのクラウドはシアトルで開発

 実は、OracleがAWSを後追いするのはサービス名称だけではない。クラウドサービスの開発体制そのものも、AWSを後追いする。Oracleは2014年7月、米シアトルのダウンタウンに「Cloud Engineering Center」を開設。クラウドサービスに必要な基盤ソフトウエアの開発は、シリコンバレーのOracle本社ではなく、米Amazon.comの本社があるシアトルで進めている。

 Oracleがシアトルにクラウドの開発拠点を設ける目的は、AWSの開発に従事してきたAmazonの開発者を引き抜くことに他ならない。Oracleは14年7月に発表したプレスリリースで、開発拠点のトップがAmazon出身のCraig Kelly氏とDon Johnson氏であると明示している。AWSに対抗するためには、手段を問わない。

 「AWSそっくりクラウド」の先輩は、米Microsoftと米Googleだ。両社のクラウドサービスは当初、アプリケーションの実行環境を提供するPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)が主体だった。しかしその後、方針を転換。AWSと同様に仮想マシンをサービスとして提供するIaaSへと軸足を移した。米IBMも2013年にAWSのライバルだった米SoftLayerを買収して、IaaS事業に参入した。

 2015年10月に米ラスベガスで開催されたAWSのイベント「AWS re:Invent 2015」では、大手製造業の米General Electric(GE)が、自社が保有する34カ所のデータセンターの内の30カ所を閉鎖し、それらで運用する9000種類の業務システムをAWSに移行する予定だと発表した。