米Dellが生き残りをかけて、米EMCを670億ドル(約8兆円)で買収すると発表した。買収後に売上高が800億ドル(約9兆5000億円)を超える新生Dellの最大の脅威は、同業のメーカーではない。DellやEMCのハードウエアを使わずにサービスを展開している、パブリッククラウド事業者だ。

 Dellは2015年10月12日(米国時間)にEMCの買収を発表し、EMCの株主に対して1株当たり総額33.15ドルを支払うとした。これは直近のEMCの株価に対して、28%のプレミアムを加えたものとなる。EMCは60日間、Dellよりも良い条件で買収を提案する企業が現れるのを待つ。そのような企業が現れなければ、株式の買い取りが始まる。買収完了は2016年の5月から10月の間を予定する。

売上高800億ドル、IT業界4位の巨大ベンダー

 670億ドルという買収金額は巨大だが、その価値の半分近くをEMCの子会社である米VMwareが占める模様だ。EMCはVMwareの株式の81%を保有しており、買収発表前のVMwareの株式時価総額は361億ドル。その81%は292億ドルとなる。

 米IBMがパソコン事業とPCサーバー事業を売却し、米Hewlett-Packard(HP)がサーバーやソフトウエア部門の「Hewlett-Packard Enterprise」と、パソコンとプリンター部門の「HP Inc.」とに分割しようとしている中、EMCを買収する新生Dellは、世界最大規模の企業向けハードウエアメーカーになる。

 Dellは2013年に株式を非公開化しており、2013年度を最後に決算を公表していない。しかしEMCのJoe Tucci会長兼CEO(最高経営責任者)は、DellとEMCを合算した売上高が800億ドルを超える見込みになると明かす。ITベンダーでこの規模を上回るのは、米Apple(2014年9月期で1827億9500万ドル)、米Microsoft(2015年6月期で935億8000万ドル)、米IBM(2014年12月期で927億9300万ドル)と、分割前のHP(2014年10月期で1114億5400万ドル)だけだ。

サーバー、ストレージ、ネットワーク機器、ソフトまでカバー

 新生Dellは事業領域も幅広い。Dell自身がこれまでパソコンやPCサーバーに加えて、ストレージ(米EqualLogicを買収)や、ネットワーク機器(米Force 10 Networksを買収)、セキュリティ(米SonicWALLや米SecureWorksを買収)、ソフトウエア(米Quest Softwareを買収)、ソリューションサービス(米Perot Systemsを買収)などを手掛けていた。

 今後はさらに、EMCのストレージに加えて、EMCの子会社である仮想化ソフトのVMwareや、情報セキュリティの米RSA、データウエアハウスやPaaS(Platform as a Service)の米Pivotal Software、垂直統合ハードの米VCE、クラウド管理サービスの米Virtustreamが加わる。なおVMwareはニューヨーク証券取引所への上場を維持し、EMCとVMware、米General Electric(GE)の3社が出資するPivotalは新規上場を目指す予定だ。

 顧客としてはこれまで、「Dellは中小~中堅企業に強く、EMCは大企業に強い」(DellのMichael Dell会長兼CEO)という違いがあった。新生Dellはあらゆる規模のユーザー企業に対して、ITインフラストラクチャーに関連するあらゆるハードとソフト、そしてパソコンを販売するという他には無い総合的なITベンダーになる。