米IBMの「Watson」は、米国のクイズ番組「Jeopardy!」の勝利で一躍有名になったため、「質問応答システム」と見なされることが多い。しかし商用化から2年が経ち、Watsonの全貌は大きく変わった。改めてWatsonとは何なのか。WatsonのCTO(最高技術責任者)を務めるRob High氏に聞いた。

(聞き手は中田 敦=シリコンバレー支局)
写真●米IBM Watson Solutions Vice President兼CTOのRob High氏
写真●米IBM Watson Solutions Vice President兼CTOのRob High氏
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 最近のWatsonは、IBMが2015年3月に買収した「AlchemyAPI」のディープラーニング技術を取り込むなど、当初のイメージからかけ離れてきた。改めて、Watsonとは何か。

 「Cognitive(認知)System」を実現するためのプラットフォームだ。Cognitive Systemとは、以下の四つの条件を満たすシステムと定義している。

 第一に、Cognitive Systemは自らの行動(behavior)を学習するシステムだ。例えば、人間が大量の条件文をプログラムしなくても、「タコスとサラダの見分け方」を料理のレシピから学び取れなくてはならない。そもそも人間が「タコスとサラダの見分け方」を数学的モデルに従って記述するのは非常に困難だが、Cognitive Systemは大量のデータを分析することで、人間には不可能な「モデル化」を実現する。

 第二に、Cognitive Systemは人間の表現様式、自然言語を使いこなせるシステムだ。ここで言う自然言語には二つの意味がある。一つは人間が読んだり書いたりしゃべったりする文章形式の言葉、もう一つは、文章の区切り方や抑揚、ジェスチャーといった、言葉に付随する様々な動きだ。例えば人間は、ある単語を強調して伝えたい時に単語の直前で文章を区切ったりする。Cognitive Systemは、このような人間のあらゆる表現を理解できなければならない。

 第三に、Cognitive Systemは自らが持つ専門知識の確かさを証明できるシステムだ。Cognitive Systemは人間から与えられた質問に対して、直感的に正しい回答や、論理的に正しい回答を生成できなくてはならないし、その回答を正しいと考える根拠を説明できなくてはならない。