現実の風景にCG(コンピュータグラフィックス)を合成するAR(拡張現実)が、間もなく数億台の既存スマートフォンやタブレットで利用可能になる。カギとなるのは、1個のカメラでARを実現する「単眼式AR」だ。専用端末を推していた米Googleも、米Appleや米Facebookを追従し、一般的なスマホで実現できる単眼式ARにかじを切った()。

表●主なARプラットフォーム
会社名プラットフォーム名方式発表時期普及規模
AppleARKit単眼式17年6月2017年内に数億台
FacebookCamera Effects Platform単眼式17年4月
GoogleARCore単眼式17年8月プレビュー期間内に1億台以上
GoogleTango専用ハード14年2月2機種(販売台数不明)
MicrosoftWindows Mixed Reality専用ハード15年1月1機種(販売台数不明)

 Googleは2017年8月29日(米国時間)に、スマホで単眼式ARを実現する技術「ARCore」を、「Android」用のSDK(ソフトウエア開発キット)として発表した。多くのスマホが標準搭載するカメラやモーションセンサー(ジャイロセンサー)を使って、リアルタイムで3次元空間認識を実行し、認識した空間にCGを合成してスマホに表示する(写真)。

写真1●ARCoreで実現したARアプリの画面例
写真1●ARCoreで実現したARアプリの画面例
出所:米Googleが公開したYouTube動画
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 具体的には、カメラの画像とモーションセンサーのデータからスマホの位置や方向を推定する「モーショントラッキング」や、カメラの画像から机の表面などを推定する「環境理解」、カメラの画像から空間における光源の位置や向きなどを推定する「光源推定」という三つの機能を備える。ソフトウエア開発者はARCoreのSDKを使うことで、これらの機能を組み込んだARスマホアプリを開発できるようになる。

 ARCoreでは、カメラが撮影した画像の中に写った「物体の角」「直線」といった「特徴点」を認識し、その特徴点の動きを検出し続けることで、カメラの動きや被写体の状態などを推定する。これがモーショントラッキングや環境理解といった機能の実態だ。

「その場にいる」表現が可能に

 これらの機能を組み合わせることで、カメラの向きに応じてCGオブジェクトの見え方が変わったり、CGオブジェクトの動きに応じて、テーブルに映り込むオブジェクトの影が変わったりするようになる。例えばARゲームの「ポケモンGo」では、CGのポケモンは地面から浮いているように見えた。ARCoreが提供する技術を使えば、CGが地面に立った姿を描き出せるようになる。

 Googleはスマホ用AR技術として既に「Tango」を商用化していた。Tango対応のスマホは中国Lenovoと台湾Asusが製品化しているものの、Tango専用の「深度カメラ」や「モーション・トラッキング・カメラ」が必要な「複眼式」だった(写真2)。

写真2●Tangoに必要だった専用センサー
写真2●Tangoに必要だった専用センサー
通常のカメラに加えて、深度カメラとモーション・トラッキング・カメラが必要だった
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 それに対してARCoreでは、専用カメラが不要だ。Googleは「1億台以上のAndroidデバイスでARCoreを利用可能にすることを目指している」と説明する。現時点ではGoogleの「Pixel」と韓国サムスン電子の「Galaxy S8」で、ARCoreのプレビュー版が利用できる。