米国の低所得者層のスマートフォン所有率が低いのはなぜだろう――。そんな疑問を突き詰めることで生まれたFinTechスタートアップがある。シリコンバレーに拠点を置く米PayJoyだ。「デザイン思考」のアプローチに基づいて、低所得者向けのスマホローンを開発した。

 PayJoyは2015年12月に米国で、韓国サムスン電子製のハイエンドスマホ「Galaxy」の購入資金を貸し出すというショッピングローンを開始した。米国で携帯電話事業者(キャリア)が提供するスマホの割賦販売を利用可能なのは一般に、クレジットカードの利用履歴などを基に算出した「FICO(ファイコ)スコア」が高い消費者だけ。PayJoyはキャリアが相手にしないFICOスコアが低い層をターゲットにする。

 融資の条件はPayJoyが開発した「PayJoy Lock」というソフトウエアをスマホにインストールすること。返済が滞った場合はこのソフトがスマホを利用できなくするので、返済へのインセンティブが強く働く。「スマホを『Pay as You Go(使った分だけ支払う)』で利用可能にした」。同社の創業者でCEO(最高経営責任者)を務めるDoug Ricket氏(写真1)はそう説明する。

写真1●PayJoyの経営メンバー
写真1●PayJoyの経営メンバー
左からCBO(最高ビジネス責任者)のMark Heynen氏、CEOのDoug Ricket、COO(最高執行責任者)のGib Lopez氏
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 「市場には100~200ドルの低価格スマホが存在するのに、低所得者のスマホ所有率は低いまま。その理由を考えた結果、このサービスが生まれた」。Ricket氏はPayJoyのサービスが生まれた経緯をこう語る。

 低所得者はお金が無いからといって、低価格スマホには手を出さない。なぜなら低価格スマホは性能的に使い物にならないことを知っているからだ。「みんな低価格スマホを買って惨めな思いをするぐらいなら、フィーチャーフォン(スマホではない携帯電話機)を使っている方がいいと考えている」(Ricket氏)。消費者の心理に寄り添うことで、低所得者のスマホ所有率が低い本当の原因が、低所得者向けのショッピングローンが無いことにあると判断して、ハイエンドスマホ専用のショッピングローンを開発したのだという。

消費者への「共感」はデザイン思考で学んだ

 消費者の心理に寄り添うという同社のアプローチに大きな影響を与えたのが、Ricket氏がスタンフォード大学の「d.school」で学んだ「デザイン思考」だ。デザイン思考は「デザイナーの手法や考え方を応用にした、イノベーションを生み出すための方法論」のことで、スタンフォード大学や、同大学と密接な関係があるデザイン会社の米IDEOなどが提唱し、体系化した。

 デザイン思考のプロセスは、製品やサービスのユーザーを観察することから始まり、プロトタイプ(試作品)を作ってユーザーにテスト(評価)してもらい、試作とテストを何度も繰り返す。そうすることでアイデアを洗練させていく。特に重視するのがユーザーへの「共感(Empathize)」。「低価格スマホは欲しくない」というユーザーの気持ちに「共感」することで、PayJoyは新しいショッピングローンのサービスを生み出したわけだ。