通常、BtoB(企業向け)の事業を手掛ける企業は、その先にあるBtoC(消費者向け)企業の顧客である最終ユーザーを直接には見ていません。消費者のニーズをすくい上げるのは、BtoC企業の仕事であることがほとんどだからです。BtoB企業はBtoC企業へ続くサプライチェーンのどこかに位置しており、消費者のニーズや動き、行動、トレンドからは距離があります。

 ですから、BtoB企業が一般消費者をあまり意識せずにビジネスを続ける理由はシンプルです。「われわれが取引しているのは一般消費者ではなく、規模が大きく、長い時間かけて信用も築いてきた安定した取引先なのだ」。このような声が聞こえてきそうです。

 これは、ある意味、BtoBビジネスに携わっている人にとっては正しい認識なのでしょう。一般にBtoBビジネスは、BtoCビジネスよりも安定していると思われています。不特定多数の人々に売るのではなく、特定の取引先との安定した関係に基づいていて、取引そのものも世の中の流行に左右されにくいと考えられているからです。

Apple社が、iPhoneに有機ELパネルを採用するという報道は大きな関心を集めた。写真は、iPhone SE。
Apple社が、iPhoneに有機ELパネルを採用するという報道は大きな関心を集めた。写真は、iPhone SE。

 しかし、最近はそうとは言えなくなってきています。例えば、2015年11月に米Apple社がスマートフォン「iPhone」に有機ELパネルを採用すべく動き出しているという報道がありました。日本経済新聞は同年11月26日付の朝刊で「アップル、iPhoneに有機EL採用 韓国LGが増産投資」と報じました。「スマホの技術をけん引するアップルが有機ELを採用することでパネル産業の世界市場は勢力図が変化しそうだ」とこの記事に書かれているように、従来主流の液晶パネルからの転換点になるかもしれません。

 これが本当ならば、その余波は当然、ディスプレーパネルメーカーに材料や部品を納入する企業にも及ぶでしょう。日本経済新聞は、同年12月26日に「液晶パネルから有機ELへ アップルが移行を主導」(同日付朝刊)という記事で「特にスマホの分野では、米アップルがiPhoneに有機ELパネルの採用を計画していることで、パネル部材メーカーは経営方針の大幅変更を迫られている」と書いています。

 有機ELパネルは、一部のテレビやスマートフォンで採用されていますが、実用化技術がまだ十分ではなく、メーカー各社は様子見の状況でした。そこに流れたのが、スマートフォンで巨大なシェアを持つApple社が有機ELパネルの採用を検討しているという報道です。

 これまで有機ELパネルへの開発投資をためらいがちだったパネルメーカーでしたが、一気に開発リソースが投じられるかもしれない状況になってきました。たった1社、Apple社の動向が業界の様相を一変させようとしているわけです。

 これはエレクトロニクス業界の例ですが、多くの業界で似た構図があります。BtoC企業が採用する技術の方向性が変わることで、多くの裾野産業に影響が及ぶ。BtoB企業にとっては、昨日まであった巨額の取引が一気になくなってしまうかもしれないという危機です。ここにきて、そうしたことが起きる傾向は強まっています。それは、グローバルビジネスではこれまでの日本的な商慣習が通用しなくなっているからです。