世界遺産の町、群馬県富岡市─。同市を中心に、周辺の下仁田町、南牧村、甘楽町の4市町村で構成する富岡圏域で今、未来の医療体制のあるべき姿を模索するプロジェクトが進みつつある。主導するのは、医療機関を核に、住宅型有料老人ホームや特別養護老人ホーム、デイサービスセンターなどの高齢者施設を展開する細谷グループだ。2016年春、プロジェクトの序章が始まった。

介護と医療の一体サービスを提供

 その舞台は、細谷グループの1社、ホソヤが運営する住宅型有料老人ホーム「アットホーム尚久富岡南」。2016年5月に31床を新設し、そのうちの21床に開発No.009「遠隔診断システム」を導入した。

住宅型有料老人ホーム「アットホーム尚久富岡南」。21床に遠隔診断システム」を導入した
住宅型有料老人ホーム「アットホーム尚久富岡南」。21床に遠隔診断システム」を導入した

 同システムは、「iOS」対応の「iPad」「iPad mini」「iPhone」などのモバイル機器と、利用者の情報を一元管理するノートパソコン「MacBook」を基本単位して運用し、利用者間での双方向の映像会話を可能にする。アットホーム尚久富岡南の場合には、iPadを21床の各部屋に1台ずつ、管理室には2台設置。さらにヘルパーなどのスタッフ向けに、専用ソフトをインストールして上述のiPadと同じ機能を持たせた「iPod touch」を5台用意した。

 そして何より、これらのモバイル機器は全て、細谷グループの母体である、医療法人民善会が運営する細谷クリニックの医師が持つiPadへとつながる。すなわち、介護と医療が一体となったサービスを提供する点に、細谷グループの最大の強みがある。

部屋の右上の壁にiPadが据え付けられている。頭の上のナースボタンを押しても、iPadを介して管理室や医師などとつながる
部屋の右上の壁にiPadが据え付けられている。頭の上のナースボタンを押しても、iPadを介して管理室や医師などとつながる
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば、入所者が体調の異変を感じたら、部屋のiPadの中央に表示されたよびだしボタンに触れるか、あるいはiPadと連動する、枕元に垂れ下がったナースコールボタンを押せば、管理室のiPadにつながる。ここで、管理室のスタッフは映像を見たり会話を交わしたりしながら入所者の容態を確認し、iPod touchを持つヘルパーを部屋に急行させたり、画面を医師と切り替えて遠隔診療を依頼したりすることができる。

 逆に、管理室のiPadから、容態が気になる入所者の部屋を選択し、話しかけることなども可能だ。しかも各部屋のベッドの下には、横になっている入所者の脈拍や体動、呼吸の推移を非接触で計測するドップラーセンサーを配置し、入所者の体調を常時モニタリングしている。そして万が一、脈拍が低下するなどの異変があると、管理室のiPadにその情報が表示され、直ちに映像を通して医師に診断してもらいながら具体的な指示を仰ぐなど、緊急時にも迅速に対応できる仕組みとなっている。

 同システムを構築した、アポロン(本社愛知県稲沢市)代表取締役の牧田進氏によれば、「通信回線には『LTE』や無線LANなどの既存のモバイル回線が使える上、第3世代移動体通信『3G』などの比較的低速な回線でも安定して運用できる」というから安心だ。