ダイハツ工業は3Dプリンターで砂の型を造り、その型で試作部品を作る取り組みを進めている。今回、従来のアルミ部品だけでなく、エンジンなど鉄部品の試作も可能にした。その要になったのが、砂である。天然の砂から人口の砂に変えるなどして実用化した。

 人工砂を使うメリットは砂の熱膨張率の低さによる型の精度の良さである(関連記事:ダイハツ、3Dプリンターで砂型を造り鉄部品の試作可能に)が、デメリットとなったのがアルカリ性物質であることだ。従来の天然珪砂は中性に近い弱酸性(シリカの成分割合によって性質が異なる)であるのに対して、今回の人工砂はアルカリ性である。

 弱酸性の天然珪砂は反応において酸触媒と相性が良いのだが、人工砂はアルカリ性なので酸触媒を混ぜた際に中和されて結合反応が止まってしまう。このために従来の3Dプリンターによる造型では、人工砂を用いるフラン自硬性プロセスが採用できなかった。

 そこでダイハツでは人工砂が生砂の状態で酸触媒をコーティングして強制的に酸化する方法を考案した。だが、一時的にはpHは下がるものの、アルカリ性の物質と接触しているために、少しでも処理に手間取ると時間の経過とともに弱酸性になってしまい、型が固まりにくくなる。

図 今回は人工砂に特殊コーティングした
図 今回は人工砂に特殊コーティングした
従来のフラン自硬性プロセスでは、天然珪砂を使用した場合には酸触媒(今回は3Dプリンター・メーカーが指定する、一般的な材料であるパラトルエンスルホン酸)をフラン樹脂と組み合わせて使う。ただし、従来の人工砂ではアルカリ性のために酸触媒が中和されて反応が止まってしまう。これを抑えるために、人工砂に特殊なコーティングを施して、脱水縮合による硬化反応を成立させた。
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 そこで生砂に特殊な酸性物質を使った処理を施して酸性の膜を内側に付加、そのうえで表面に酸触媒層によるコーティングを施す、“2層コーティング”と呼べる技術を開発した。

 「砂の粒子の内側に中和を抑制する層を焼き付けるイメージで、酸性物質を添加した。さらに温度を上げて充分に内部で拡散させたうえで、酸触媒層を加えた結果、時間が経てもpHの値が変わらずに硬化が続くことになった」(ダイハツ生産技術部技術企画室主任係長の髙田和樹氏)という。

図 2層コーティング概略
図 2層コーティング概略
生砂を中和抑制層と酸触媒層で覆うことで、酸性を保った。自然界に存在する天然珪砂(シリカ:SiO2の成分は99.5%ほど)とともに、新たにアルミナ(酸化アルミニウム:Al2O3)とシリカを主成分とする人工砂を採用した。従来の天然珪砂では処理前の生砂ではpH(水素イオン濃度)が6前後と中性に近い酸性であり(シリカの配合によって変化)、酸触媒を添加してpHを3以下にしてフラン樹脂を加えて固めていくことは難しくない。一方でアルカリ性の人工砂では生砂の状態では7~8と中和反応を起こすため、中和抑制層を形成させてpHを4.5~5.5に下げる(酸性を強める)ことで酸性状態を作り出し、酸触媒層を付加してフラン樹脂による粘結を実現した。
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 加えて、ダイハツはコスト抑制などを狙って、鋳造後の砂型のリサイクル性にも配慮して開発を進めた。

 「従来は液体の酸触媒とフラン樹脂の2種類の材料を加えた砂の積層を繰り返す“2液湿式”を採用していたが、酸触媒を添加した人工砂を積層し続けるとさらに粘り強くなって泥状になるので積層が難しくなる。加えて、酸触媒の追加によって強い酸性を帯びるので、型材料を全量廃棄しなければならなかった。今回のプロセスは、人工砂に酸性物質と酸触媒層をあらかじめコーティングしているので“1液乾式”と呼んでいる。砂の酸性が強まらず、粘結剤を吹いていない部分(全使用量の30~50%)は乾いたままで硬化していないので、鋳造後に破砕・研磨処理した後、再度コーティングして再利用が可能となった」(髙田氏)。