昨今、市場要求レベルの高まりや規制強化への対応により、開発において達成すべき要件は複雑化の一途をたどっています。さらに、グローバル化でますます多様化する市場要求に対応するため、各社は開発機種のバリエーションを増やす方針を打ち出しており、開発現場にはより一層の開発工数削減や期間短縮が求められています。

 このように、従来よりも厳しいレベルで複雑な開発要件を短納期で成立させることが求められる中、多くの企業が開発後半で発生する、ある“問題”に悩まされています。その問題とは、「ものを作ってみて初めて発覚する性能未達や不具合の多発」です。今回は、同様の悩みを抱えていた自動車メーカーA社が実践した、問題解決の取り組みについてご紹介します。

試作段階で繰り返し発生する振動問題、限界を迎えた“力業”の対応

 A社のパワートレーン部門では、複数機種において試作段階で類似の振動問題が発生し、そのたびに、実験担当者が経験による手修正で何とかするといった、力業での対応を繰り返している状況でした。しかし、力業での対応にも限界があります。期日に間に合わせるために不眠不休で対応をしたとしても、最終的に時間切れとなり、「出力目標値の妥協」や 「追加部品によるコスト・重量UP」といった、商品性を低下させる対応にならざるをえないことが多々ありました。このような状況の中、新中期経営計画で「今後3年間で機種数を2倍にする」という方針が打ち出され、もはや現状の力業対応では乗りきれないだろうと判断し、中計実現に向け、我々iTiDの支援のもと現状分析に取り組むことにしました。

 まず、設計図面の確認から始めました。すると、そもそも振動問題が図面段階では検討されていない、または検討されていたとしても、過去機種の横並び比較で成果が出た部品を深く考えずにそのまま採用しているという状況が見えてきました。開発現場へのヒアリングでは、設計担当者から「振動問題は机上検討が難しい。どの設計パラメータをどれくらい変更すればよいかがわからないので、とりあえず過去機種で振動問題が少なかった部品を採用している。正直、ものを作ってみて問題が出なければラッキー」といった声があがりました。

 一方、振動実験の担当者からは「設計は結局、出力、燃費、排ガス重視で、振動問題のことなど考えて設計していない。だから設計には期待していないし、起きた振動問題の原因を素早く特定し、解決するのが自分たちの価値」という声があがりました。つまり、設計、実験共に、振動問題を机上検討で図面に織り込めるようにしようという改善意識は低く、「振動問題は出るのは仕方がない。問題が出ても実験がなんとかする、あるいは設計がどうにかしてくれる」という環境に、お互いが悪い意味で慣れきっている状態でした。

 次に、振動問題について出図のデザインレビュー(DR)の運用を確認しました。DR規定には振動評価の基準は明記されているものの、そもそも机上でOK/NGを評価できる手段がなく「要確認課題」として明記されるだけでした。結局は手配納期優先で出図しているという状況が見えてきました。

 DRの運用確認と並行して、実験担当者の振動問題対応工数を調査しました。そうすると、試算では、(1)現在の2機種並行開発から3機種並行開発になった時点で現在の実験担当者数では対応できなくなり破綻する、(2)新中計で想定される5機種並行開発には約2倍の実験担当者が必要になる、ということが分かりました。現実的には新中計に対応不可能という状況があらためて見えたことで、A社は改革をスタートさせる決意を固めました。