群馬大学理工学研究院電子情報部門教授の石川赴夫氏(左)と群馬大学工学部電気電子工学科非常勤講師の大朏孝郎氏(右)
群馬大学理工学研究院電子情報部門教授の石川赴夫氏(左)と群馬大学工学部電気電子工学科非常勤講師の大朏孝郎氏(右)
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 さまざまな機器やシステムが電気・電子技術で高度化する中で、機械系技術者にも回路設計の知識が求められる機会が増えている。「技術者塾」において「機械系技術者のための回路設計の基礎とシミュレーション」の講座を持つ、群馬大学理工学研究院電子情報部門教授の石川赴夫氏と群馬大学工学部電気電子工学科非常勤講師の大朏孝郎氏の両氏に、機械系技術者が回路設計について学ぶ利点やポイントなどを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──機械系技術者にも回路設計の知識が必要になっていると聞きます。なぜでしょうか。

両氏:インダストリー4.0や人工知能(AI)、IoT(もののインターネット)といったキーワードが世界で叫ばれており、多くの機械や機器、システムの高度化が加速しています。クルマの技術的な進化が好例ですが、機械はそれ自体が単体で動作するものではなく、電気・電子と融合して高度にインテリジェント(知能)化したシステムとなっていきます。そのため、機械系技術者であっても、電気・電子回路設計の基礎的な知識を押さえる必要性が以前に増してきました。

 周囲を見渡しても、例えば、ロボットやOA機器、FA機器、ハイブリッド車や電気自動車など、最近の製品には電気モーターの数が増えていることが分かると思います。モーターの駆動や制御には、電気・電子回路が必要です。例えば、2足歩行ロボットには複数のモーターが使用されており、その基本は電子回路を使ってモーターを駆動することです。この電気・電子回路には、電力を扱うパワーエレクトロニクス(主に駆動回路部分)や、論理回路を中心とするデジタル回路、オペアンプを中心とするアナログ回路などが必要となります。

 確かに、機械系技術者が詳細な電気・電子回路設計までを手掛けることは少ないかもしれません。しかし、電気・電子回路設計の知識が全くない場合と基礎知識だけでも備わっている場合とでは、電気・電子回路を担当する相手(他部門や外部企業などの技術者)との議論の質が変わってきます。当然、その知識がなければ、技術的なコミュニケーションがうまくいかず、不適切なシステムを構築する恐れがでてきます。逆に、電気・電子回路設計の知識があれば、さまざまな制約がある中で、システムの機能を最大限に引き出す技術的なコミュニケーションが可能になることでしょう。

 システムを設計する際に、機械系技術者が中心的な役割を果たすことは多いと思います。ここで、専門であるメカに強い上に、電気・電子回路の知識も備えた機械系技術者であれば、大いに活躍できることでしょう。

──技術者塾の講座では、どのようなポイントに力点を置いて説明しますか。

両氏:本講座では、機械系技術者にとって分かりやすく、かつ興味を引くように工夫しています。具体的には、回路設計の標準ツールである「LT Spice」を使い、オペアンプ回路や、トランジスタを使った発振回路、さらにモーター駆動回路をシミュレーションして、車輪駆動ロボット(ライントレーサー)を実走行させます。プリント基板の作り方やはんだ付けの仕方にも触れます。

 進め方としては、電気回路→電子回路→制御・駆動回路→プリント基板の製作方法→回路シミュレーション→ライントレーサーの実演の順に、基礎からスタートして現場で役立つ技術まで説明していきます。

 各章末には簡単な問題により、その章の理解度を確かめながら学習を進めます。

──受講者はどのようなスキルを身に付けることができますか。

両氏:電気回路の基礎や、受動素子の種類とその特性、半導体素子(ダイオード、トランジスター)の種類とその特性、オペアンプ回路の基礎、センサーの種類とその特性、デジタル回路の種類とその特性、AD/DAコンバーターの種類とその特性、モーター駆動回路とその特性について理解できるようになります。

 電気・電子回路図を描けるようになり、プリント基板の製作方法についても理解できるようになります。加えて、回路設計の標準ツールを使った回路シミュレーションを使えるようにもなります。

 さらに、車輪駆動用ロボットを通して、センサーと駆動回路、モーターで構成されるシステムのシミュレーションや回路設計、ソフトウエア(障害物検出時車輪停止アルゴリズム)について具体的に学ぶことができます。