競合製品に差をつける上で、アナログ回路の良しあしが決め手になることが、エレクトロニクス分野では増えている。巨大化するIoT市場に向けた製品ではセンサー、信号処理、ワイヤレス通信、パワーマネージメントなどの技術が重要であり、これらの高度化の鍵を握るのがCMOSアナログ回路技術であるからだ。日経BP社は「現場で活きるCMOSアナログ回路技術」と題したセミナーを、技術者塾として2017年1月18日に開催する(詳細はこちら)。本講座で講師を務める松田順一氏(群馬大学大学院 客員教授)に、アナログ回路技術の勘所などについて聞いた。(聞き手は、田中 直樹)

――CMOSアナログ回路技術の高度化は、とどまるところを知りません。

群馬大学大学院 客員教授の松田順一氏
群馬大学大学院 客員教授の松田順一氏

 米IDC社の予測では、IoT(Internet of Things)の世界市場規模は年平均16.9%で成長し、2020年には1.7兆米ドル規模になります。また、米Gartner社の予測では、その年には約250億個のデバイスがインターネットに接続されるようになります。このように巨大なIoT市場に向けた製品開発に拍車がかかっています。

 IoTでは、あらゆるモノ(自動車、医療、セキュリティー、機械、日用品、家電など)に取り付けられた各種のセンサーからの情報が、RFID(Radio Frequency Identifier)や無線LANを介してインターネットにつながり、クラウドにアップロードされます。そして、制御や監視などのためのデータ処理が行われます。

 ここで必要な技術は、センサー、信号処理(信号処理はデジタルになりますが、信号の入出力はA-D変換器やD-A変換器のアナログになります)、ワイヤレス通信(RF)、パワーマネージメントなどであり、それらの各所でCMOSアナログ回路技術が使われます。IoT市場に向けた激しい製品開発競争の中にあって、CMOSアナログ回路技術の高度化がますます要求されてきています。

――CMOSアナログ回路の、この1年の技術動向、技術トピックスについてご紹介ください。

 IoTでは膨大なデータを処理することが必要となるため、小型、低電圧、低消費電力、低ノイズ、そして高速処理のできる高度化したCMOSアナログ回路技術が要求されます。これらの要求を満たし、実用化を図るための技術開発が、さまざまな企業や大学で盛んに行われています。

 このような中で、群馬大学 教授の小林春夫氏の研究室では、2016年10月に中国・杭州で開催されたIEEE主催の学会「ICSICT(International Conference on Solid-State and Integrated Circuit Technology)」で、アナログ回路技術関係の論文を15件発表しました。例えば、ΔΣ型D-A変換器で低振幅信号生成の際に、出力のアナログ信号に発生するリミットサイクル(周期的な高調波成分)をデジタルディザ信号により低減させる方法や、DC-DCコンバーターの閉ループ/開ループの出力インピーダンス測定値からコンバーターループ伝達関数を得る方法などについて発表しています。