スイッチング電源の市場が急速に広がり始めた。48V電源を搭載した市販車が発売されたり、これまでの数分の1に小型・軽量化したノートパソコン用のACアダプターが登場したりしている。いずれもスイッチング電源によって実現されたものだ。日経BP社は「自動車、電子機器の進化を支えるスイッチング電源の上手な作り方」と題したセミナーを、技術者塾として2016年12月16日に開催する(詳細はこちら)。本講座で講師を務める西嶋仁浩氏(大分大学 工学部 電気電子工学科 助教)に、スイッチング電源の技術動向や、今後のニーズに対応するために必要なことなどを聞いた。(聞き手は、田中直樹)

――スイッチング電源について、この1年の市場動向、応用動向をご紹介ください。

大分大学 工学部 電気電子工学科 助教の西嶋仁浩氏
大分大学 工学部 電気電子工学科 助教の西嶋仁浩氏

 “タマゴが孵化し始めた”という印象があります。

 自動車分野では、ドイツAudi社から、48V電源を搭載した「SQ7 TDI」が発売されました。欧州の自動車メーカー5社が規格化した「LV148」を電装品の電源として初めて採用した市販車になります。48Vを電動ターボに活用することで、ダウンサイジングターボで問題となっていた加速時のターボラグを解消しています。

 48V電源は、電動ターボやアクティブサスペンションのように車の乗り心地を改善するためにも活用できますが、安価に車をハイブリッド化できるのも利点の1つです。近い将来、この48Vが家庭内の直流配電や家庭用蓄電池の電圧として活用されたら面白いかもしれませんね。

 一方、ノートパソコン用のACアダプターとして話題になっているのが、米FINsix社製の「DART」です。65WのACアダプターなのですが、大きさが約40cm3で、重さは60g。一般的なACアダプターと比較すると、サイズが1/4、重さが1/6と驚くべき小型・軽量を実現しています。

――スイッチング電源について、この1年の技術動向、技術トピックスをご紹介ください。

 2016年9月に開催された電子情報通信学会ソサイエティ大会では、「次世代のエネルギーエレクトロニクス産業を担う高周波スイッチング技術」というシンポジウムを企画しました。ここでは、新パワー半導体デバイス(SiC、GaN)の応用例、FINsix社のDARTに使われているΦ2コンバーターやE級増幅器のような共振型コンバーターに関する解析や制御、ゼロボルテージスイッチング(ZVS)技術などの講演がありました。

――スイッチング電源分野の、この先の動向、今後のニーズに対応するために必要なことは。

 新パワー半導体デバイスの登場によって、1980年代に盛んに研究が行われていた共振型コンバーターが復活の兆しを見せています。その動作周波数は、 MOSFETを用いたコンバーターよりも1桁から2桁高いVHF帯(数十MHz~数百MHz)に達することが予想されます。そうなると、スイッチング電源に用いられる部品の寄生成分が回路動作や電力効率に大きな悪影響を及ぼします。

 また、スイッチング電源からのノイズを抑制することも重要です。自動車の安全技術のために用いられるセンサー類がスイッチング電源からのノイズによって誤動作するようなことがあってはなりません。

 今後のニーズに対応するためには、「素材となる部品の特徴や理想的ではない振る舞いを理解すること」「負荷や入力源の特徴や理想的ではない振る舞いを理解すること」がスイッチング電源を上手に作るためのキーポイントだと感じます。