金沢工業大学教授(元トヨタ自動車)影山 裕史 氏
金沢工業大学教授(元トヨタ自動車)影山 裕史 氏
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 軽量化ニーズの高まりから炭素繊維強化樹脂(CFRP)の実用化が自動車分野で着実に進んでいる。一方で、ここに来て環境性能に優れる新材料セルロースナノファイバー(CNF)も登場してきた。背景にあるのは、自動車分野で進む「マルチマテリアル設計」に関するニーズの高まりだ。「技術者塾」において「環境対応車に必要不可欠の「マルチマテリアル」設計」(2017年8月2日)の講座を持ち、かつてトヨタ自動車においてCFRP製ボディーの実用化に携わった金沢工業大学教授で影山裕史氏に、CFRPとCNFの現状について聞いた。(聞き手は近岡 裕)


──自動車業界におけるCFRPの動向はどうなっていますか。

影山氏:実用化が広がっています。一部の高級車向けボディーの材料としてだけではなく、環境性能に優れるクルマ、いわゆる「環境対応車」の部品レベルで「MUST(必須)」のものが出てきています。

 例えば、ドイツBMW社は、電気自動車(EV)「i3」とプラグインハイブリッド車(PHEV)「i8」にCFRP製ボディーを採用したことに続いて、「7」シリーズでCFRPを補強部材として効果的な箇所に組み込んだボディーを実用化。従来にない軽さを実現しました。同社はCFRPを使ったボディーを今後の軽量化ボディーの中核に据える考えを表明しています。

 一方、部品レベルでの採用を少しずつ進めているのが、トヨタ自動車です。燃料電池車(FCV)「ミライ」には、CFRP製の水素タンクやスタックプレートを搭載しました。これに続いて、同社はPHEVの「プリウスPHV」のバックドアにCFRPを採用する計画を発表しています。一気に増やすのではなく、市場での信頼性を確保しながら一歩ずつ前進する考え方です。

 専用工場を造ってCFRPの実用化を大胆に進めるBMW社と、CFRPの適用部品を少しずつ増やして品質を慎重に見極めながら1歩ずつ前進するトヨタ自動車。進み方に違いはありますが、CFRPの実用化にはどちらも積極的であると言えます。

 そして、ここに来て「マルチマテリアル」設計がキーワードとして急浮上してきました。異なる材料を複合的に組み合わせることで、従来にない軽さを実現する設計のことです。