──マルチマテリアル設計を施した自動車のボディーは、日本よりもドイツの方が進んでいる印象を受けます。

影山氏:日本勢も頑張っているのですが、確かにドイツ勢の方が先行しています。例えば、先のBMW社の7シリーズはマルチマテリアルボディーの典型例。一般的な鋼板を使いつつ、超高張力鋼板(ウルトラハイテン)や、引っ張り強さが300MPa以上の鋼板、アルミニウム合金、そしてCFRPといった軽量化材料を、「適材適所」で使いこなし、従来にない軽量化を実現していることが特徴です。まさに、ムダやムラ、ムリのない設計と言えます。CFRPはこのマルチマテリアル設計において、最も重要な鍵を握る材料になるはずです。

 ここでは自動車ボディーの話をしてきましたが、マルチマテリアル化はいろいろな側面で進んでいます。車両サイズのマルチマテリアル化では、既に話題にしているボディー(キャビン)とシャシー。部品サイズのマルチマテリアル化は、例えばフロントエンドモジュールのようなモジュール部品です。そして、材料サイズで見たマルチマテリアル化があります。

 例えば、CFRPは炭素繊維(無機材料)と樹脂(有機材料)を組み合わせた複合材料です。これを繊維の径から見ると、μmサイズのマルチマテリアル化と判断することができます。
さらに細かくnmサイズで見ると、セルロースナノファイバー(CNF)の世界が見えてきます。CNFの直径はnmサイズなのです。CNFも樹脂に混ぜて強化材となる点はCFRPと同じです。

 マルチマテリアル化は今後ますます進んでいくと思います。

──確かに、今、CNFも大きな話題になっています。どのような材料なのでしょうか。

影山氏:CFRPと共に、実用化が期待される新たな材料です。セルロースとは木材の成分。木材はセルロースとリグニンなどから成り、セルロースは木材の主成分の1つです。つまり、CNFは植物系のため、環境における炭素量に対して中立である、いわゆる「カーボンニュートラル」の材料です。加えて、日本の強みを発揮できる。日本に豊富にある資源である上に、日本は木材の使い方にも長けてます。

 先述の通り、CNFの直径はnmサイズです。繊維がここまで小さくなると特性が変わってくる。樹脂の中に混ぜると、細かく分散されることで、強度が高まります。波長が透過できるサイズ(小ささ)にして透明にすることもできます。これを、例えば自動車のピラーの材料に使えば、十分な強度を保ちつつ、視認性を高めることが可能です。安全性に優れる、これまでにない斬新なピラーを造れるというわけです。軽量化だけではなく、CFRPでは出せないこうした特性も潜在的に持っていることが、CNFへの注目度の高さの背景にはあります。