熱で製品が動かなくなったり、低温やけどを招いたり、深刻な影響を与えるようになってきました。製品開発競争が激化し、発熱密度の限界で開発が行われるようになっているからです。そこで日経BP社は「50の熱対策事例に学ぶ実践的熱設計」と題したセミナーを、技術者塾として2017年11月17日に開催する(詳細はこちら)。本講座で講師を務める国峯尚樹氏(サーマルデザインラボ 代表取締役)に、熱設計を身に付ける上での勘所などについて聞いた。(聞き手は、田中直樹)

――機器設計で「熱」の問題が深刻化しています。

 熱問題が多様化したこと、熱設計が限界設計になってきたこと、設計の役割分担が細分化したことがその理由です。

 昔は部品の寿命を保証するように温度を下げることが熱設計でしたが、今は熱で製品が動かなくなったり(熱暴走する)、低温やけどを招いたり、深刻な影響を与えるようになりました。製品開発競争が激化し、発熱密度の限界で勝負しています。最初に熱を意識してかからないと、予想をはるかに超えた温度になる場合もあります。

 それと一番の問題は「熱設計を責任を持ってやる人」がいないことです。日本の技術者は幅広い守備範囲で仕事をしますが、こと熱に関して片手間で解決するのはほぼ困難になっています。設計に関わる方が広く浅く熱について知るだけではだめで、深く理解した熱のプロフェッショナルが必要な時代になっています。

――熱設計で重要なことは。

 「熱」は身近な問題で感覚的に分かりやすいのですが、現象が複雑で定量化が難しいという特徴があります。それを手助けするのが、熱流体シミュレーションや熱回路網法などの温度予測手法です。これらは目に見える形で進歩し、設計に浸透してきました。

 しかし、「温度を予測すること」と「温度を抑えること」は別です。いかに正確に温度を予測できても、温度を抑える仕掛けが組み込まれていなければ、「NGであること」をより正確に予測するだけになってしまいます。熱設計は温度を予測することではなくて、温度を満足する放熱機構を作り上げることに他なりません。

 「熱設計手法」を身に付けることにより、目標温度に収めるために必要な通風口の面積、ヒートシンクの大きさ、ファンの個数、配線の太さなどを論理的に決められるようになります。熱設計では温度を測ってから対策するのではなく「あらかじめ手を打っておくこと」が何より大切です。熱設計手法はこれを実現する定石の集まりなのです。