BMW社のEV「i3」は第1ステージをクリア


──EVやハイブリッド車は重いバッテリーを積む必要があります。しかし、それ以外の環境対応車はどうですか?

影山氏:燃料電池車(FCV)にもCFRPは必須です。例えば、トヨタ自動車が開発したFCV「ミライ」。FCVは燃料である水素を積むために水素タンクを搭載します。航続距離を伸ばすには、タンクに貯蔵する水素の量を増やさなければならない。そこで、ミライには70MPaの高圧水素タンクを搭載しています。これは海底7000mの水圧に相当するほどの高圧。この圧力に耐えるタンクを鋼で造ろうとすると、タンクの肉厚が厚くなり、重くなりすぎて車両が成立しません。そこで、ミライでは軽くて強いCFRPを使って高圧タンクを造りました。

 つまり、今後普及が見込まれる環境対応車にとって、CFRPは「MUST(必須)」。軽量化材料の選択肢の1つではなく、CFRPを使わなければ環境対応車を造ることができないという関係にあるのです。こうした理由でCFRPの開発は最近、ますます拍車がかかっています。


──CFRPの開発に関して、自動車業界では最近どのような動きが見られるのですか。

影山氏:2つの動きがあります。1つは、CFRPを使って走行性能を高める動きです。主にスポーツカーやスーパーカーが対象となります。ルーフやフロントフードをCFRPに置き換えることで車体を軽く、かつ低重心化します。すると、走行安定性が高まり、機敏な動きが可能になります。安定性が増せば、安全性も向上します。

 もう1つが、先に述べた環境対応車向けの開発です。CFRPを使うことで環境対応車を製品として成立させ、二酸化炭素の削減へとつなげていくのです。当然ですが、「二酸化炭素の全体の削減量(地球規模の二酸化炭素削減量)=環境対応車1台当たりの二酸化炭素削減量×台数」です。ということは、台数が増えなければ地球規模の二酸化炭素を減らすことはできません。つまり、CFRPの量産性を高めなければ、環境対応車として意味を成さない。要は、CFRPの大量生産を可能にすることが、現在の自動車業界が抱えている大きな技術的な課題の1つなのです。

 CFRPはこれまで航空機や風車、レーシングカー、ゴルフシャフトなどに使われてきました。基本的にゆっくり生産しても構わない製品群です。これに対し、クルマは1カ月当たり数千台、数万台の規模で大量生産しなければなりません。そこで、CFRPでは成形サイクル(成形時間)を短くする技術開発が進んでいます。

 産官学全体を巻き込んで研究開発が進んでいるのが、熱可塑性樹脂を使った「CFRTP」です。熱硬化性樹脂を使ったCFRPよりも成形時間が短くて済むため、成形サイクルを短縮できるはずだ、という考えが背景にはあります。このCFRTPを使った部品が、本当に自動車生産に求められる量産性を満たせるのか、そして、自動車に要求される高い品質を確保できるのかという技術的課題への挑戦が各所で行われているのです。そして、BMW社のi3はその第1ステージをクリアしたというわけです。