クオリス・イノーバ代表取締役社長の木村浩実氏
クオリス・イノーバ代表取締役社長の木村浩実氏
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 成長を続ける巨大市場であり、景気変動にも比較的強いと言われる医療機器市場。自動車や電機、産業機器など、異業種から医療機器市場への新規参入を望む日本企業は増えている。

 「技術者塾」において「医療機器新規参入の手引き」と「医療機器の品質問題を防ぐ仕組みと開発手法」の講座を持つ、クオリス・イノーバ代表取締役社長の木村浩実氏に、医療機器市場に参入するメリットやポイントを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──医療機器市場への新規参入を望む声が、日本企業で大きくなっています。その理由は何でしょうか。

木村氏:日本の製造業にとって、リーマン・ショックはいまだ記憶に新しいと思います。2008年に発生したこのリーマン・ショックに端を発する世界不況で自動車や電機、産業機器など日本の基幹産業があえぐ中、がぜん注目を浴びたのが医療産業です。その理由は、景気に関係なく、堅実な成長を遂げているから。加えて、利益率も高く、企業の収益の安定化にも大きく貢献しています。

 日本政府も医療産業に着目しました。貿易収支を見ると、最も輸入過多となっている産業が医療業界で、行政の手立てを講じる必要性を感じたのです。そこで、日本政府は成長戦略の主要テーマに医療産業を選定し、強力に施策を推し進めることを決定しました。2020年までに16兆円の市場規模に拡大することをもくろんでいます。

 こうした日本政府の後押しもあり、大手家電メーカーのほとんどが医療機器産業に積極的に参入し、新たなポートフォリオの1つとして投資をしています。例えば、ソニーはオリンパスと組んで、超高画質(4K)腹腔鏡を作り上げました。このように、既存の技術を医療に応用することに成功すれば、利益率の高い商品に生まれ変わり、企業の収益の安定化に貢献できます。

 後押しを受けるのは大手企業だけではありません。日本政府の施策は中小企業も取り込んだコンソーシアム(共同事業体)構成となっており、さまざまな規制が緩和されています。そのため、中小企業も参入しやすくなり、実際に成果を上げ始めているのです。こうした施策が、新たな安定収益源の確保という企業の思惑と一致し、医療産業に関心を持つ日本企業が増えているのです。

──医療機器への参入は、今後もチャンスが大きいのでしょうか。

木村氏:医療機器の世界市場は約40兆円もあります。新興国・発展途上国の市場が急速に成長しています。一方、日本では高齢化に対する医療需要の拡大が見込まれています。これに照準を合わせて、高度な技術力と生産力を誇る日本の技術、特に中小企業の技術力を生かした開発体制が整いつつあります。これは、日本政府が成長戦略の一貫として規制を緩和し、政府が主導したオールジャパンの開発支援体制の結果です。

 新たな雇用を創出するためにも、国は選択・集中して国家予算を投入しています。これを享受することで、安定した収益を上げられる医療機器の市場に有利に入り込むことが可能です。成功すれば、収益を安定させ、雇用を安定的に創出することができます。加えて、社員のモチベーションを鼓舞することにもつながります。人の命に関わる新たな事業に携わることで、やりがいを感じる社員が増えるからです。