高精度のA/D変換やD/A変換に使えるΔΣ型A/D、D/A変換器。その応用分野が急拡大している。IoTやセンサーネットワーク、自動車制御用の加速度センサー、リチウムイオンバッテリーの残量電荷検出、有線・無線通信分野でのA/D、D/A変換では、高精度のΔΣ型A/D、D/A変換器が必要になるからだ。日経BP社は、「ΔΣ型A/D、D/A変換器の回路設計を究める」と題した講座を、技術者塾として開催する(講座の詳細)。本講座で講師を務める群馬大学 理工学部 電子情報理工学科 客員教授/東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 嘱託助教の松浦達治氏に、講座の狙いや効果、オペアンプの理解のポイントなどについて聞いた。

群馬大学 理工学部 電子情報理工学科 客員教授/東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 嘱託助教の松浦達治氏
群馬大学 理工学部 電子情報理工学科 客員教授/東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 嘱託助教の松浦達治氏

――ΔΣ型A/D、D/A変換器を基礎から理解する効果について、教えてください。

 ΔΣ型A/D、D/A変換器は、これまでに(ΔΣ型ではない)ナイキスト型A/D、D/A変換器を扱ったことのある方でも、初めてであればかなり戸惑う変換器だと思います。

 ナイキスト型A/D変換器は、ある時刻でのアナログ入力信号に対応するデジタル出力を1対1で出力します。例えば、フルスケールが-1V~+1VのA/D変換器でフルスケール+1Vの入力信号を入れれば、出力信号は11111・・・のデジタル値になります。これに対してΔΣ型A/D変換器は、入力信号を1対1でデジタル値に変換するのではなく、入力された例えば正弦波アナログ波形をできるだけ近似するデジタル信号系列に直して出力する変換器です。波形全体として変換を行います。出力したデジタル波形が、入力したアナログ波形にどれだけ似ているかを表すには、信号電力Sと、量子化雑音などの雑音電力Nの比率を示すSNRで表現します。

 ΔΣ型A/D変換器は、信号処理によりA/D変換動作をするものです。オーバーサンプルといって、入力アナログ信号を表すに必要なサンプリング周波数2×fb(fbは入力信号の帯域)より大幅に高いサンプリング周波数fs(×8~×256など)を使って信号をサンプリングし、それをΔΣ変調器が1ビットないし数ビットの粗い量子化をしたデジタル信号に直します。このΔΣ変調器は、アナログ信号の電圧に比例したパルス密度のデジタル出力を出します。このパルス密度のデジタル出力をデジタルフィルターで低サンプルレート(2×fb)のデジタル信号列に直すと、アナログ入力波形を近似したデジタル出力波形になります。

 本セミナーではまず、ΔΣ変調器の原理を徹底的に理解していただくため、この原理を、図を使って丁寧に説明する予定です。原理をいったん体得できれば、バンドパスΔΣなどさまざまな変形があるΔΣ変換器の世界に入って、思う存分に自分のアイデアを実現できるようになります。

――ΔΣ型A/D、D/A変換器に関する知識や理解は、今後ますます必要とされるようになるのでしょうか。

 ΔΣ型A/D、D/A変換器は、ナイキスト型が素子バラつきによって精度が制限されるのに対して、オーバーサンプル比を上げれば精度が基本的に上がっていくため、高精度に向いているという利点があります。

 高精度が必要なオーディオ用のA/D、D/A変換器にはΔΣ型が使われていますし、近年話題のIoT、センサーネットワークで高精度にA/D変換するためにはΔΣ型が必須です。また自動車制御用の加速度センサー、リチウムイオンバッテリーの残量電荷検出用途、有線・無線通信用などでも高精度の変換が必要です。

 集積回路の集積度も上がっていくため、デジタルフィルターの回路規模が問題にならなくなり、その意味でもΔΣ型A/D、D/A変換器が活躍する場所は今後ますます増えていくと思います。