車載電子機器を全体最適で制御する中で、高い品質を保たなければならないのですね。では、個々の車載電子機器の品質を確保することは難しくなっているのでしょうか。

神谷氏:難しくなっています。というのは、車載電子機器の小型・軽量化が進んでいくにつれて、熱が与える影響が大きくなっているからです。温度変化によってはんだにかかるストレスが大きくなり、破壊しやすく寿命が短くなる可能性があります。その対策の難易度は高まっています。

技術者塾で開催する新講座「車載電子機器における信頼性確保とその評価法・解析法」は、どのような内容なのでしょうか。

神谷氏:車載電子機器を中心に、たくさんの事例を採り上げます。まずは、車載電子機器における品質に関する復習から始めます。FMEAやFTAなど設計段階における品質確保のツールの使い方をおさらいしつつ、車載電子機器の品質について定義します。

 高い水準の品質が要求されるといっても、全ての車載電子機器に同じレベルの品質が求められているわけではありません。中には、民生品レベルで十分なものもあります。一方で、「走る」「曲がる」「止まる」というクルマの基本機能、加えて「安全」に関わる車載電子機器には、特に高水準の品質を確保しなければなりません。

 続いて、車載電子機器の品質を高める技術の解説に入っていきます。現在、自動車には厳しい規制がかけられています。排出ガス規制と、二酸化炭素を削減するための燃費規制です。これらの厳しい規制を解決する1つの有効な手段に車体の軽量化があります。この流れの中で、車載電子機器も小型・軽量化が加速しています。

 車載電子機器を小さく設計しようとすると、熱密度が高まります。表面積が小さくなるため自己発熱する個々の電子部品などの熱密度が高まることに加え、電子部品が密集して実装されるため周囲の温度が上がって全体の熱密度も高まるのです。従って、品質を確保する上で放熱性を重視した設計が非常に大切になります。

 具体的には、車載電子機器を構成する、回路基板と電子部品、コネクター、筐体の4要素は全て小型化の影響を受けます。筐体は放熱設計のキーデバイスですし、回路基板も放熱設計で重要な要素となります。加えて、コネクターも放熱の手段に使います。車載電子機器は単体で存在するわけではなく、導通のために必ずワイヤーハーネスとつながっています。ワイヤーハーネスは銅の塊。そのため、最近ではこのワイヤーハーネスを放熱に積極的に利用することも行われているのです。本講座ではこうした新しい対策も含めて解説していきます。

車載電子機器の品質を確保する上で、特に注意すべきポイントはどこですか。

神谷氏:車載電子機器の品質を決定するのは「接続部」である、と言っても過言ではありません。実は、電子部品単体の不良率は十分低く、品質トラブルの原因になることはほとんどありません。

 この接続部には2種類があります。1つは、回路基板と電子部品の接続部であるはんだ付けです。もう1つは、異種材料間の接合です。本講座では、こうした接続部を中心に、特にはんだ付けの不具合事例と対策について分かりやすく解説します。


 加えて、ECUを事例に挙げながら回路基板に関する故障事例と対策も説明します。半導体チップと電極との引き出し線、例えばアルミワイヤーボンディングの品質をいかに高めるかについても学びます。さらに、接合部の信頼性を高める手法の1つとしてモールド樹脂封止の技術の現状も紹介します。そして、確実に絶縁すべき箇所で短絡を起こす金属結晶であるウィスカのトラブル事例も採り上げます。

想定する受講者はどのような方ですか。また、どのような受講効果を得られますか。

神谷氏:自動車業界や電機業界で電子回路基板を使ったシステムの設計・開発者です。ハードウエアの実装設計を担う人や電子部品の設計者にも役に立つと思います。

 受講効果としては、車載電子製品の信頼性全般について基本技術を習得できます。加えて、事例を中心した信頼性評価・解析法について、実務的な対応技術について学ぶことができます。もっと言えば、電子製品に限らず、線膨張係数が違う異種材料を接続する構成において、どこに品質上のリスクがあるかを知る“嗅覚”を養うことができます。