デンソー 基盤ハードウエア開発部 担当部長の神谷有弘 氏
デンソー 基盤ハードウエア開発部 担当部長の神谷有弘 氏
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 高い品質が求められる車載電子機器。ところが、今、その高い品質を確保するためのハードルがどんどん上がっている。環境負荷軽減への対応強化により、車載電子機器の小型・軽量化が加速しているからだ。車載電子機器を小さくすると熱密度が向上し、品質を保つための対策が難しくなる。「技術者塾」において「事例でマスターする 車載電子機器の信頼性確保と評価法の勘所」の講座を持つ、デンソー基盤ハードウエア開発部担当部長の神谷有弘氏に、今、車載電子機器に求められる品質の水準や品質を確保するためのポイントを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

技術者塾では品質に関する講座に多くの受講者が集まっています。自動車業界では大規模リコールが世間の耳目を集めていることもあって、品質に関して敏感になっているように感じます。車載電子機器に求められる品質水準は上がっているのでしょうか。

神谷氏:従来に比べて品質の要求水準が特に上がっているというわけではありません。従来も今も変わらず高い品質水準が車載電子機器には求められている、といった表現が正しいと思います。しかし、今、クルマの中における車載電子機器の位置づけが変わりつつあります。車載電子機器をどう構成すべきかが問われているのです。クルマの電子化がかなり進んだ結果、車載システムをどのように構成したらよいかを再考する段階になりつつある。ここで今、「電子プラットフォーム」という考えが出てきました。

 2015年9月9日(米国日時では9月8日)、トヨタ自動車が4代目となる新型「プリウス」を発表しました。セグメントをまたぐ部品の共通化(モジュラー設計)を踏まえた設計思想「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を採用した第一弾のクルマです。実は、電子プラットフォームの成果が新型プリウスには投入されています。

電子プラットフォームとはどのようなものなのですか。

神谷氏:これまでの車載電子機器は、エンジンやトランスミッション、ブレーキなど個々の車載電子機器がそれぞれ別の電子制御ユニット(ECU)やセンサー、アクチュエーターで構成されていました。こうして構成された個々の車載電子機器を順次アドオン(上乗せ)していくことで、クルマの電子化をこれまでは進めてきたのです。

 しかし、本来エンジンとトランスミッション、ブレーキの間には密接な関係があります。従来はこれらを個別に制御してきましたが、今、車載電子機器にとっての全体最適、すなわち「あるべき姿」を目指して、電子制御の方法を見直す段階に入ってきているのです。クルマの車台にプラットフォームという考え方があります。複数の車種をまたいで共通して使えるプラットフォームを使うという考えです。それと同様の考え方を車載電子機器に展開したのが、電子プラットフォームです。

 この電子プラットフォームでは、車載電子機器が相互に関係を持つようになります。互いに連携させながら最適な電子制御を行うからです。すると、より理想的な電子制御ができるようになります。ところがその一方で、細心の注意を払わなければ、例えばエンジンとトランスミッションのマッチングの部分など複数の車載電子機器の「つなぎの部分」で不具合が起きるリスクがあります。そういう意味で、車載システム全体の設計を担当する人は、これまで以上に広い視野でものを見るようにしなければなりません。要求水準は変わりませんが、より慎重な品質のつくり込みが必要になったと言えるでしょう。