触り心地の追求や新しい計測/呈示情報として、触覚への注目が高まっている。感性に訴える製品やサービスが求められるようになってきているからだ。日経BP社は「触感のデザイン~感性の追求と体験の創出」と題したセミナーを、技術者塾として2017年10月17日に開催する(詳細はこちら)。本講座で講師を務める田中由浩氏(名古屋工業大学 大学院工学研究科 電気・機械工学専攻 准教授)に、製品やサービス開発において、触感をデザインすることの重要性などについて聞いた。(聞き手は、田中直樹)

――「触感」への注目が増しています。

 触覚の知覚メカニズムに関する研究や、触覚の計測や呈示などの要素技術開発が進んだ結果、現在は、それらをどう活用するかが焦点になっています。「触感のデザイン」が躍進するフェーズに入ってきたと実感しています。

 米Apple社は「Taptic Engine」を発表しました。iPhone7のホームボタンやMacBookのマウスパッドは、実際には物理的にボタンやパッドが動くわけではありません。しかし、内蔵された振動モーターによって、クリック感を感じることができます。

 任天堂も「HD振動」機能を発表しました。新しいゲーム機「Switch」のコントローラーでは、臨場感のある触感の表現を可能にしています。錯覚の活用や触感を制御可能にすることにより、耐久性などの機能性や触感提示による操作性を向上し、さらに表現を豊かにしています。

 触覚技術の活用が盛んになりつつありますが、これは、単純な触覚デバイスでも構成や使い方を工夫すれば、十分に優れた触感提示や応用が可能だと分かってきたことが背景にあると思います。多機能・高性能な触覚デバイスを追求するだけが、すべてではないことが分かってきたのです。

――「触感のデザイン」のキーポイントや、この先の動向、および今後のニーズに対応するには何が必要か、教えてください。

 触覚の基礎と応用研究はまだ発展の途上にあり、今後も進展していくと思います。触覚による効果も未開な部分が多く、「触感のデザイン」には、新たな価値を創出できる可能性があります。

 触覚は、物理的に世界を認識するための感覚であり、身体的体験を通じた実感を与えます。従ってその効果は、機能的な側面や単なる情報伝達だけではなく、身体や情動への働きかけなど、幅広い側面を持っていると思います。現在の製品やサービスに対するニーズも、機能性の追求に加え、感性や体験に訴えることが求められるようになります。

 触覚は視聴覚に次ぐ要素であり、実感を与える触覚への注目度や期待は、その活用事例とともに、さらに拡大していくでしょう。その際には、どのように触覚の基礎的知見を生かすか、どのように要素技術を組み合わせ、新たな感性的価値、体験的価値を生み出すか、その方法論やノウハウが求められます。

 今回のセミナーで講師にお招きした南澤孝太先生(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 准教授)と渡邊淳司先生(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚表現研究グループ主任研究員(特別研究員))は、「Haptic Design」を啓蒙し、未来の触覚デザイナーの養成、優れた触覚デザインの表彰、触覚デザインの方法などのセミナーも開かれています。

 特に、「Haptic Design」を、質感、実感、情動にカテゴライズし、それぞれの特徴を整理されています。今回のセミナーでも、その捉え方、方法論を学ぶことができるでしょう。私自身も、触覚の基礎的知見を生かして、製品の触感の設計から、医療、福祉応用まで、幅広く、触覚技術の応用先を広げています。触覚の基礎的知見は、新しい触覚デバイスや狙うべき価値を考えための多くのヒントを与えます。