日産自動車が開発したデザインレビュー手法 「Quick DR」が注目を集めている。その理由は、開発期間が限られる中で、不具合の発生を効率よく未然に防止できることにある。「技術者塾」では「開発者から学ぶ 日産の不具合未然防止手法「Quick DR」」〔2017年3月3日(金)〕の講座を開催する。講師は、日産自動車においてQuick DRを開発し、導入推進した同社技術顧問の大島恵氏と同社車両品質推進部主管の奈良敢也氏。両氏がQuick DRとは何かを解説する(注:日経ものづくり2013年1月号解説「短期間で効果的に問題を発見・解決するQuick DRを始めよう」を再掲載)。

大島 恵 氏=日産自動車 技術顧問
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大島 恵 氏=日産自動車 技術顧問
奈良 敢也 氏=日産自動車 車両品質推進部 主管
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奈良 敢也 氏=日産自動車 車両品質推進部 主管
─(3)から続く─
 肝心の変更点と変化点についてもう少し詳しく説明しておこう(図6)。Quick DRにおいては、この変更点/変化点に検討対象を絞ることになるからだ。

 まず、変更点とは、設計者が意図的に変更した仕様や造り方などのことである。機構や構造、寸法や質量といった機械的な変更だけではなく、電子制御が一般的となっている現在、電子機器の切り替えも変更点として重要な検討対象となる。

 例えば、機構・構造の変更としては、シートのリクライニング機構の変更、シートフレームの断面形状の変更などがある。レイアウトの変更としては、車両の大きなレイアウト変更だけではなく、従来は横置きだったモータを縦置きに変更する、上下の向きを反対にするといったことも含む。材料の変更では、新しい種類の材料を採用することだけではなく、強度などの材料特性を変えることも考えられる。

 一方の変化点とは、製品が使われる場所の環境や、ユーザーの使い方などの変化のことだ。設計者が意図的に変えなくとも、周辺の環境が変わったために結果として製品側にも影響を与えることがある。

 例えば、日本市場向けに開発した自動車を海外市場に投入することを考えてみよう。単に気温が異なるだけではなく、路面環境なども大きく違う場合がある。

 実際、ロシア市場に進出した際には品質問題に苦労した。ロシアが寒い国だということは容易に想像が付いたが、路面環境に起因したトラブルは想像外だった。単に路面が荒れているだけではなく、ロシアの場合には泥の固着が激しい。さらに、冬になると液体の融雪剤が使われるため、これらが組み合わさって思わぬトラブルが生じる。このような変化点を事前に把握することが、不具合の未然防止には不可欠なのだ。

図6●変更点と変化点
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図6●変更点と変化点
変更点は、製品の中身や造り方などメーカー側で能動的に決定できるもの。一方の変化点は製品が使われる環境やユーザーの使い方など、メーカー側では決められない要因を指す。