日産自動車が開発したデザインレビュー手法 「Quick DR」が注目を集めている。その理由は、開発期間が限られる中で、不具合の発生を効率よく未然に防止できることにある。「技術者塾」では「開発者から学ぶ 日産の不具合未然防止手法「Quick DR」」〔2017年3月3日(金)〕の講座を開催する。講師は、日産自動車においてQuick DRを開発し、導入推進した同社技術顧問の大島恵氏と同社車両品質推進部主管の奈良敢也氏。両氏がQuick DRとは何かを解説する(注:日経ものづくり2013年1月号解説「短期間で効果的に問題を発見・解決するQuick DRを始めよう」を再掲載)。

大島 恵 氏=日産自動車 技術顧問
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大島 恵 氏=日産自動車 技術顧問
奈良 敢也 氏=日産自動車 車両品質推進部 主管
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奈良 敢也 氏=日産自動車 車両品質推進部 主管
─(1)から続く─
 そこで、リコールやサービスキャンペーンに至ったような重大な不具合や顧客迷惑度が高い不具合について、その原因を分析した。この分析の視点となったのが、設計の新規性である。

 新規性は、大きく5段階に分類した(図2)。具体的には、新規性が高い順に「世界初採用」「日産初採用」「従来の知見で新たに設計する」「標準の範囲で設計する」「完全流用」という5つである。

 この新規性を横軸に、縦軸を不具合(想定される故障)の重大性とし、発生した不具合をプロットしてまとめたのが図3である。図中の「●」の数が、発生した不具合の件数を表している。これを見ると、新規性5(世界初採用)や新規性4(日産初採用)といった領域では不具合が発生しておらず、新規性3の領域、つまり一度は設計したことがあるものの、一部を変更したような部品で失敗していることが分かる。

 実は、新規性5や新規性4の領域で重大性が高い部品に対しては、FMEAやFTAを使ったデザインレビューをしっかりと適用してきた。その結果、この領域ではリコールやサービスキャンペーンに至った不具合は全く発生していなかったのだ。つまり、デザインレビューは有効に機能していたことになる。

図2●設計の新規性の定義
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図2●設計の新規性の定義
最も新規性が高い「5」は「世界で初めて採用する」で、続く新規性4が「日産自動車で初めて採用する」となる。実際の設計で最も多い新規性3は、「従来の知見で新たに設計する」という領域だ。

 ところが、新規性3のようにそれほど新規性が高くない部品、つまり少しだけ設計変更したような部品においては、デザインレビューが適切でなかったり、デザインレビューを適用していなかったりしていた。その結果として、不具合が発生していたのだ。この領域であっても、FMEAやFTAを使ったデザインレビューを適用していれば、不具合の発生は防げたはずだ。では、なぜ適切なデザインレビューが行われなかったのか。その背景には、デザインレビューの実施に対する敷居の高さがあった。

図3●重大不具合の発生領域
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図3●重大不具合の発生領域
実は、全ての不具合が設計の新規性3の領域で発生していた。新規性が4や5の領域ではデザインレビューが有効に機能し、不具合発生を未然に防止できている。一方、新規性3の領域ではデザインレビューが有効に実行されていなかったことが分かる。