──逆に、学術・産業技術俯瞰システムを使わないとどのようなリスクがあるのでしょうか。

坂田氏:周りの情報に左右され、経営判断に迷う可能性があります。よくあるのは、知り合いの専門家に頼り切るケースです。知己の大学の先生に話を聞き、それを鵜呑みにしてしまう。しかし、知り合いの先生が常に正しいとは限りません。先述の通り、知識の細分化が進む中で、少し専門分野から外れるとあまり知見がなかったり、専門分野でも最新情報を仕入れていなかったりすることも考えられます。

 学術・産業技術俯瞰システムを使えば、より信頼性の高い専門家を割り出すことができます。ユーザー(自社や個々の研究者)が注目している領域で、優れた評価を受けている研究者を割り出せるからです。というのは、ある研究者の学術論文が、どこのジャーナルに載っており、どのグループに属していて、引用件数が上位何番目にあるかといったことを調べることができるからです。これを利用すれば、知己の研究者の評価を調べ、信頼がおけるか否かを確かめることもできます。

──学術・産業技術俯瞰システムを開発した背景は何ですか。

坂田氏:学術情報が成長している、すなわち「知識の爆発」が起きているからです。量の拡大はもちろん、多様性も見られます。その理由の1つに、アジアの国々からの学術論文が劇的に増えていることが挙げられます。例えば、太陽電池の学術論文なら、従来は米国とドイツ、日本からの学術論文がほとんどだった。ところが、最近は中国や台湾、インドからの学術論文が増加している。もちろん、学術論文にアクセスすることはできます。しかし、膨大な学術論文の中から自社のビジネスに役立つものを探し出すことが、ますます困難になっているのです。広大な森が広がっている中で、自社にとって重要な1本の木を見つけ出す作業に似ています。

 例えば、ナノカーボンに関する学術論文は今、年間4万件くらい出版されています。20年前は数千件程度でした。こんなに多いと、アブストラクト(摘要)を読むだけでも難しい。世界にはアブストラクトを1000件読んで研究する人もいますが、頑張って読んだとしても、次の年にまた4万件の学術論文が出版されるのです。こうした課題から、どこに注目すべきか、優先順位をつけてガイドする。情報や知識の爆発の中で、研究者をナビゲートすることが、学術・産業技術俯瞰システムの開発の動機です。

 学術・産業技術俯瞰システムは、森を俯瞰的に見ることができます。これにより、森の植生が分かる。あるいは、ナスカの地上絵で言えば、上から見ることで、それぞれの線の意味が分かります。一方で、「解像度」も重要です。俯瞰した上で、それぞれのグループの中身をズームアップして見ることが、このシステムではできます。ある植生の中で、探し当てた1本の木を詳しく調べることもできるのです。