熱という現象は感覚で捉えられるが、定量的に捉えることは難しい。そこで電子機器の開発における熱設計では、熱流体解析ソフトウエアを導入し、「数値実験」を繰り返しながら対策するのが一般的である。CAEは必携のツールとして浸透している。そこで、日経BP社は「高密度実装を実現する熱計測とCAEモデリング」と題したセミナーを、技術者塾として2017年8月30日に開催する(詳細はこちら)。本講座で講師を務めるサーマルデザインラボの国峯尚樹氏は、CAE活用の時代だからこそ、実験や計測が重要であると説く。実験を通して熱を理解することの意義について、国峯氏に聞いた。

 熱は身近な現象です。熱い・冷たいという感覚で捉えることができます。何となく味噌汁の冷める時間は分かります。しかし、これを定量的に予測しようとすると、とても大変です。「熱湯を入れたカップの5分後の温度を予測しなさい」という命題に対し、伝熱工学の知識を活用して、何らかの答えを出せる人は少ないでしょう。電子機器ではもちろんそれ以上のことが要求されます。

 そこで最近は各社とも熱流体解析ソフトウエアを導入し、「数値実験」を繰り返しながら対策を練り込んでいくようになりました。CAEはもはや不可欠なツールとして浸透しています。しかしながら、コンピューターモデルはすべて数値情報で成り立ちます。実験は数値が分からなくてもできますが、コンピューターモデルは数値化が命です。ところが、実際には数値が分からないパラメーター(例えば接触熱抵抗や放射率など)がたくさんあり、これが実製品とモデルとの乖離を生みます。実製品に近いモデルを作り上げ、CAEを真に活用するには基礎データの収集が不可欠です。

 コンピューターモデルの妥当性確認は、実機温度との比較によって行われます。両者が一致しない場合は、まず解析結果が疑われます。「実測は真」が暗黙の了解になっているからです。しかし、温度測定結果も解析と同様大きな誤差を持つ場合があります。この実測誤差を把握しないと、正当なモデル評価はできません。設計者は「測定方法によって得られる結果がどの程度違うか?」を把握しておく必要があります。