電源技術の進化は、とどまるところを知らない。従来より1~2桁高い動作周波数に対応する電源や、電気自動車(EV)用の電源、超小型電源などの実現に向けた、様々な次世代電源技術の提案が相次いでいる。日経BP社は「EVや電子機器を進化させるスイッチング電源の上手な作り方」と題したセミナーを、技術者塾として2017年7月26日に開催する(詳細はこちら)。本講座で講師を務める西嶋仁浩氏(大分大学 理工学部 創生工学科 電気電子コース/助教)に、次世代の高性能電源を開発するために必要なポイントなどについて聞いた。(聞き手は、田中直樹)

――前回のセミナー(2016年12月開催)では、スイッチング電源を上手に作るために必要な知識や技術、手法について解説していただくとともに、自動車用電源システムやGaNデバイスを使った電源などの仕組みや工夫についてもご紹介いただきました。今回、新たに加わる内容について、ご紹介ください。

 「数式を使って見える化する、磁気部品やMOSFETの詳細な振る舞い」「48Vハイブリッドシステムを搭載するドイツAudi社の「SQ7」用のDC-DCコンバーターや複数のACアダプターの分解調査結果」「最大10MHzで動作するコンデンサー分圧方式2相式コンバーター用IC(スイッチ、ドライバー、制御回路の一体型)の紹介」などを追加する予定です。

――今回、特に力点を置いて説明するポイントは。

 次世代の高性能電源を実現するために必要なノウハウを提供するのが、このセミナーのポイントです。(1)電源部品の数式を使った見える化、(2)電源製品に用いられている技術的な工夫、(3)スイッチング電源を高効率化・小型化するための回路技術の3つから成ります。

(1)電源部品の数式を使った見える化

 新パワー半導体デバイス(SiC、GaN)の登場によって、スイッチング電源の動作周波数は1桁から2桁高くなることが予想されます。そのため、スイッチングデバイスのターンオン・ターンオフの詳細な動作を理解し、電圧・電流・寄生成分がどのように影響するのかを数式として把握しておくことがとても重要になってきます。また、磁気部品の設計においても、ヒステリシス損・うず損・残留損・近接効果・表皮効果・ストレ容量など、どういった成分がどのように影響するのかを数式で理解しておけば、有限要素法を用いたシミュレーターを使う前に、ある程度の設計指針を立てることができます。

(2)電源製品に用いられている技術的な工夫

 近年、通信機器用電源に用いられていた技術が自動車用途にも広がりを見せています。例えば、「マツダのi-ELOOP」や「AudiのSQ7の48Vシステム」の電源には、パソコンのCPU用電源に用いられている多相式コンバーターやカップルドインダクターコンバーターの技術が応用されています。

 一方、自動車用電源は、その用途ならではの放熱技術や実装技術も施されています。蓄電部品の活用についても、日本ケミコンの電気二重層キャパシターや、東芝のLiイオン電池(SCiB)の特徴や、クルマの動作環境を総合的に考慮した最適設計が組まれて大変勉強になります。

 このセミナーでは、学会で発表された情報や電源技術者としての知見を交えながら自動車用電源に用いられている技術を解説します。また、現在注目を集めている小型ACアダプター(FINsix社など)などの分解調査結果も紹介します。