製品の複雑化に伴って、試作段階で起こる熱問題は、ますます深刻になっている。しかし、高価なシミュレーションツールを使える人はごく一部に限られる。そこで、シミュレーションに頼らない熱対策の手法を提案しているのが、サーマルデザインラボ 代表取締役の国峯尚樹氏だ。同氏は、熱を電気回路に見立てて解析する「熱回路網法」を提唱している。この熱回路網法を学べるセミナーを、日経BP社は技術者塾として2016年5月26日に開催する(詳細はこちら)。本講座で講師を務める国峯氏に、講座の狙いや受講効果、実践的熱設計のポイントなどについて聞いた。(聞き手は、日経BP社 電子・機械局 教育事業部)

サーマルデザインラボ 代表取締役の国峯尚樹氏
サーマルデザインラボ 代表取締役の国峯尚樹氏

――製品の複雑化に伴って、熱問題が深刻化しています。

 以前は、熱設計といえば、ファンやヒートシンクなどの冷却デバイスを使った方法が中心でした。現在では機器の小型化が進み、ファンもヒートシンクも使えない場合が増えています。これらでは、基板や筐体を使って様々なルートから熱を逃がすので、部品の配置、配線、筐体表面処理など「機器の設計そのものに熱対策を織り込む」必要があります。また、半導体の微細化により、温度が上がると発熱が増えるなど、設計条件がダイナミックに変化するようになったことも設計を難しくしています。

――試作段階で起こる熱問題が深刻になっていることから、シミュレーションの重要性が増しています。その中で「シミュレーションに頼らない熱設計」をテーマに掲げた理由は。

 シミュレーションは今や、設計に欠かせないツールとして浸透しています。電子機器用の熱流体解析ソフトウエアは多くのセットメーカーが導入・活用しています。当社がコンサルティングを行う際にも、重要なツールとなっています。しかし、ここであえて「シミュレーションに頼らない」としたのは、以下の3つの理由からです。

(1)設計上流で行う「骨太の熱設計」が重要

 シミュレーションは「設計検証」です。検証は「仮説」があって成り立ちます。設計では、「これで大丈夫。これがベスト」という仮説をシミュレーションで検証するのです。「これで大丈夫」と言えるためには、ある程度定量的な予測ができ、危ない部品や部位を認識していなければなりません。どんなに高精度のシミュレーターを使っても、前段の設計が悪ければ、悪さがより明確に分かるだけです。形状を具体化する前の「骨太の熱設計」が最も重要です。

 シミュレーションでは形状を入力し、温度を出力します。シミュレーションがどんなに高精度化しても、これは変わりません。一方、熱設計は目標温度を条件(インプット)として、充足する形状を出力する作業です。

(2)設計者全員が関与することが重要

 熱は、例えば半導体チップで発生し、基板や筐体を通って外気に逃げます。このため、製品に関わる設計者全員が何らかの形で関与します。しかし、シミュレーションソフトのライセンスは安くないことと利用技術が必要なことから、利用者は一部に限られます。そうなると、一般設計者には「熱は誰かに任せる」という構図が生まれ、「まずは熱抜きで設計し、後で対策してもらう」という設計スタンスに至ります。多くの人が「熱」から離れ、最後になって熱で行き詰まるという最悪のパターンに陥ります。

(3)熱を理解することが重要

 伝熱現象は簡単ではありません。物質内部の熱伝導、流体の移動を伴う対流、電磁波による熱放射が同時に起こります。非線形性のある現象を連立して解かねばならないため、手計算では簡単な形状しか扱えません。伝熱計算と熱流体シミュレーションの間を埋めるのが「熱回路網法」です。

 熱回路網法では「放熱経路のモデル化」と「放熱特性(熱抵抗)の定量化」が不可欠です。この手法を経験し、実測と比較しながら経験を積むことで、放熱現象そのものを理解できるようになります。これは、シミュレーションでは経験できないアプローチです。ただし、全員が深く理解する必要はなく、エキスパートがツール化や図表化を行い、一般設計者が設計に使えるレベルに落とし込むことが大切です。