集積化による小型・低コスト化

 大きく注目されているIoT(Internet of Things、もののインターネット)においても、さまざまな情報を取得するのはセンサーです。従ってIoTが普及すれば、その分MEMSの数も増えます。2023年までに1兆個のセンサーが使われる社会を目指す「Trillion Sensors」というキャンペーンも米国を中心に盛んです。少し考えれば分かりますが、MEMS技術を使わずに1兆個ものセンサーを造ることは不可能。つまり、多くのセンサーがMEMSになるはずです。

 大量に使われるセンサーには低コスト化が求められます。低コスト化と聞くと「安かろう、悪かろう」というイメージを持つ人がいます。そこまでいかなくても、「高性能化や高機能化よりも位置づけが低い」と感じる人がいるかもしれません。産業界には少ないと思いますが、アカデミックにはそうした考えが蔓延しているように思います。ところが実際は、MEMSでは低コスト化は小型化や集積化によって実現されます。それは高い技術によって可能になるため、低コストとはすなわち技術が高いことを意味します。

 例えば、最新の3軸加速度センサーは1 mm四方しかありません。ドイツBosch Sensortec社は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)内のTSV(Through Silicon Via)を使ったウエハレベル集積化・パッケージングによって小型化を実現しています。米国のベンチャー企業であるInvenSense社は、ウエハレベル集積化・パッケージング技術を武器にしてMEMS業界でアメリカン・ドリームを体現しました。InvenSense社は今、ドイツRobert Bosch社、米Avago Technologies社に次いで最も勢いのあるMEMSメーカーの1つだと思います。フリットガラスによって蓋ウエハを接合するといった、かつて標準的だった技術は最新のコンシューマー向けMEMSには使われていません。

 高度な集積化・パッケージング技術は、今後ますます重要になっていきます。半導体製造技術は、ウエハ上に同じものを同時に大量に製造する場合に最適です。一方で、ウエハ上にセンサーやマイクロポンプ、マイクロバルブ、マイクロ流路、制御回路などを一緒に造り込んだバイオセンサシステムは、素人の描く図に登場するだけで、実際にMEMS技術で実現するのはほとんど不可能と言っても言いすぎではありません。しかし、最近、高密度実装による小型化と低コスト化が限界に近づき、ウエハ上に複数の異なるセンサー、例えば加速度センサーや圧力センサー、温度センサーを一括で製造する技術が現実味を帯びています。