IoT(Internet of Things)市場が立ち上がるにつれ、高周波無線技術の必要性が一層高まってきた。日経BP社は「高周波回路は怖くない、大学レベルの知識で本質をマスター」と題したセミナーを、技術者塾として2016年3月25日に開催する(詳細はこちら)。本講座で講師を務める呉工業高等専門学校 副校長/教授の黒木太司氏に、FETモデリングのポイントなどについて聞いた。(聞き手は、日経BP社 電子・機械局 教育事業部)

――高周波回路の利用シーンが広がっています。

 モノとモノがつながるIoT(Internet of Things)の進展により、高周波無線技術を利用したM2M(Machine-to Machine)システム構築の重要性が認識され始めています。また、従来からの技術であるRFID(Radio Frequency Identifier)の市場がここ数年、にわかに立ち上がってきました。携帯電話に代わってボリュームゾーン市場を狙える技術として、UHF帯電磁波を利用したM2MやRFIDが注目されています。さらに、自動車の電動化も見逃せません。そのための要素技術の1つに非接触充電があり、国内外でさまざまな方式による市場導入の検討が始まっています。

――高周波回路について、この1年の技術の動向やトピックスをご紹介ください。

 M2MやRFIDシステムにおける各情報端末のハードウエア部分は、高周波回路部とアンテナに大別されます。前者は低消費電力や小型化が、また後者では小型化や低姿勢化が要求されています。この1年、これらの要求を満足するためのMMIC技術やアンテナ技術に進展がありました。また、主に、85kHz帯の電磁波を利用した共鳴型電磁誘導方式や、MHz帯電磁波を用いた走行充電方式が開発され、注目を集めています。

――高周波回路において、今後の市場要求に対応するために必要なことを、教えてください。

 現在、300MHzから数GHzにわたるUHF周波数帯の利用は逼迫しており、各種の高周波システムを最適に運用するためには高周波回路の高性能化が最重要事項になります。また、ベースバンド信号で利用されるデジタル信号の伝送速度は、ますます高速化する見込みです。このような信号の高効率伝送にも、高周波回路設計が必要になります。その基本は昔も今も、電磁波伝送理論に基づいた、スミスチャートとS行列を駆使した整合理論にあるといえます。

――高周波回路設計の講座は昨年に続いての開催になりますが、前回の講座にはなかった、新たに加わる内容をご紹介ください。

 M2MやRFIDに必要とされる小型アンテナ設計技術、電気自動車の非接触充電システムを設計するための整合理論を付け加えます。

――今回の講座では、どのようなポイントに力点を置いて説明されるご予定ですか?

 回路やアンテナにおける電磁波の挙動が、目に見えるがごとく把握できることがキーポイントになります。そのためには、交流回路理論と電磁界理論の理解が重要であり、電磁波の物理現象の解説に力点を置きます。

――今回の講座は、どのような方々に参加いただきたいですか?

 これから高周波回路設計者を目指す方や、電磁波回路の本質を理解したい方、伝送回路や電磁気学を学び直したい方などです。

――今回の講座を受講することで、受講者はどのようなスキルを身に付けることができるのか、ご紹介ください。

 基本高周波回路設計、スミスチャートを駆使した回路設計、S行列を用いた回路設計評価、整合理論を用いた各種伝送線路、回路・アンテナ設計、非接触電力伝送システムの高効率化などが身に付きます。