──自動車分野の技術開発において知財情報戦略は、今後ますます必要となるのでしょうか。

山内氏:先の回答とも重複しますが、「テレマティクスと知能化、さらに将来の自動運転を想定すれば、自動車分野こそ知財情報戦略の有効活用に好適」というのが私の認識です。この認識から、自動車分野の技術開発において知財情報戦略はこれからますます必要になると確信しています。

 加えて、こうした広範な分野の技術開発を単独の企業だけで完結するのは非現実的です。従って、今後は技術ベンチャー企業の買収や専業メーカーとの提携が進むはず。すると、これに伴う買収先や提携先の候補の探索はもちろん、候補の目利きも重要となります。ここでも知財情報戦略を有効活用できるため、知財情報戦略の重要性は増す一方でしょう。

 実は、知財情報戦略の方法論を開発する契機となったのは、技術ベンチャー企業の知財デューデリジェンス(価値の精査、DD)の実務でした。特許マッピングの類いは、統計学的処理による分析が一般的です。従って、大企業に比して保有件数が桁違いに少ないのが常の技術ベンチャー企業には向いていません。

 そのため、方法論の開発に際しては参考書の不在にしばらく嘆いた後、とことん考え抜いた後に私は知財情報戦略の原型を考案しました。その後、日々実践しながら改良を加えたのが今日の知財情報戦略ですので、候補探索や目利きに効果的であることは間違いありません。

 なお、実践事例を一部公表しているので参考にしてください(関連資料1)。

──「技術者塾」の講座では自動車分野の技術開発として自動運転とFCVを大きく取り上げます。これらの知財情報戦略についてキーポイントを教えてください。

山内氏:自動運転の知財情報戦略については、判断技術(AIを含む)やセンシング技術、通信技術がキーポイントとして挙げられます。一方、FCVの知財情報戦略については、エンジン部分となるスタック関連技術(触媒含む)に加えて、水素燃料タンク技術もキーポイントとして挙げることができます。この他、本講座では電気自動車(EV)も取り上げる予定です。EVの知財情報戦略では2次電池の容量向上化技術の他、ワイヤレス給電技術もキーポイントとして挙げられます。実施した解析結果から、EVと自動駐車(自動運転の一機能)、およびワイヤレス給電が相互に影響しながらEVが普及していくと私は予想しています。

 この辺りは、本講座の第1部の簡易PEST分析でご紹介したいと思います。