2016年5月の宇宙ビジネス通信をお届けします。5月は、火星軌道に有人の基地を作るという夢のある話を1位にしました。果たして、実現するでしょうか。

1位「米国Lockheed Martin社、火星軌道に有人基地計画」

 2016年5月18日、米国Lockheed Martin社は、2028年までに、火星の軌道に宇宙ステーションMars Base Campを整備する計画を発表しました(ニュースリリース)。2030年に、火星に人を送り込むことを最終目標としているとのことです。

 約40年前の1976年に、米国NASAのViking Lander1号、Viking Lander2号が、火星に着陸し、約5年間、火星の画像やデータを送信するなどの活動を続けてきました。それ以来、米国Lockheed Martin社は、アメリカ航空宇宙局NASAともに、火星探査について歩み続けています。

 Mars Base Campは、宇宙船のOrion、宇宙飛行士など有人の居住空間のHabitat、実験設備や火星地上機器/設備を管理監視するための設備を持つMars Laboratoryに加え、地球への緊急帰還や他惑星へ移動のための推進系などが装備されるといいます。Mars Base Campには、遠心力で重力を発生する装置を付けることも検討しているようです。

 世界各国が、昔から火星を目指してきました。旧ソ連、ロシアは1962年のマルス計画、1988年のフォボス計画を含めて、様々な探査機を火星に送り込むことを目指しましたが、通信不能などの不運に見舞われています。米国でも、1960年代からのマリナー計画から様々な探査機を火星に送りこもうとしましたが、不運な事故により失敗した計画もあります。しかし、マーズパスファインダーのソジャーナ探査機の軟着陸、マーズエクスプレッション・ローバーのスピリットやオポチュニティーやマーズサイエンスラボラトリーのキュオリオッシティのローバーによる火星探査では成功を収めています。また、米国Space X社CEO イーロン・マスク氏も火星移住計画を本気で検討しているといいます。

 火星への有人飛行計画は、莫大な予算が必要となるでしょう。ではこの予算をどのように調達し、どのように活用していけばよいのでしょうか。デイビッド・ミーアマン・スコット氏とリチャード・ジュレック氏のMarketing the moonという書籍には、「人類がまだ火星に行っていないのは、科学の敗北でなくマーケティングの失敗なのだ」という名言があります。これは、米国が冷戦時代に人類が月に行くことができたのは、ソ連にはなかった「マーケティングの力」を最大限利用した結果であるという、アポロ計画の成功実績に基づいています。火星への宇宙計画のみならず、全ての宇宙事業においても、日本にはないこの発想は重要なのかもしれません。

米国 Lockheed Martin社が掲げるMars Base Camp計画
米国 Lockheed Martin社が掲げるMars Base Camp計画
(出所:Lockheed Martin社ホームページ) 
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