テクノロジーの進化は、スポーツ用具の性能や精度を向上させた結果、種目それぞれに特化したプレースタイルをもたらすことになりました。人はプロ、アマ問わず専用のウエアをまとい、専用の施設で専用の用具を使ってパフォーマンスをすることが定着したのです。

 「スポーツサーフェス」も、その例外ではありません。

 「サーフェス」とは、スポーツに関しては耳慣れない響きの言葉と感じられる方が多いのではないでしょうか。一般には「表面」ですから、何かの表面を思い浮かべたり、あるいは米Microsoft社が2012年に発表したタブレット型コンピューターを連想したりする方も多いかもしれません。

 スポーツを行う場所の地面や床を指して、専門家は屋外については「サーフェス」、屋内については「フロア」と呼びます。

陸上競技とアンツーカ

 現在、あらゆる競技を同一の「サーフェス」上で行うのは小学校の校庭ぐらいでしょうか。各種目専用のサーフェスでプレーすることが世の中の常識となっています。例えば、陸上競技の走路、野球スタジアム、サッカーやラグビーのスタジアム、スカッシュコート、テニスコート、ゴルフコース、バスケットコート、バレーボールコート、など例を挙げるのにいとまがありません。

 数年前、日本機械学会で講演されたサーフェス専門会社、奥アンツーカ(本社大阪府東大阪市)の奥 洋彦社長を紹介していただきました。著者自身、スポーツ工学という講義を担当しており、サーフェスには興味がありましたので、会社を訪問したいと思いつつ、それから数年の時が経ってしまいました。ずっと以前、テニスに没頭していた経験から、アンツーカと聞けば、反射的に赤いテニスコートが思い浮かびます。

 しかし、アンツーカとは正しくは何でしょうか。Wikipedia(日本語版)によると「アンツーカ(英:En-Tout-Cas、アーントゥーカー)は、そもそも「晴雨兼用の傘」を指すが、高温焼成したレンガなどの土を粉砕してつくられる赤褐色の土、あるいはそれで覆われたサーフェスを指す商標名として用いられ、現在は一般名称となっている。語源はフランス語で「どんな場合でも」を指す“en tout cas”である。「どのような天候でも使用できる」と解釈され、全天候性を表すようになった。ただし本来フランス語のen tout casには人工土としての意味は無く、アンツーカを指して用いることもない」そうです。

 今回の取材で得た資料によると、アンツーカはもともと、フランスのレンガ工場で積荷場にたまったレンガ粉の層に水たまりが出来ないことに注目した人が、テニスコートに敷いたのが始まりだそうです。レンガ粉自体は砂のようなもので、そのままでは崩れやすいので、舗装材として使えるように工夫を凝らしています。